寂しいね。
悲しいね。
そこは真っ白な世界だった。辺りを見回しても何もない世界だった。
あるのはただ二つの光だけだった。
その二つは絡み合うように、じゃれあうように辺りを飛び交っていた。
「どうしたの?」
『悲しいんだ』
「どうして?」
『悲しいことがあったからだよ』
ふわりふわりと光は飛び交う。
周囲には音もなく、光の会話は静かに続いていく。
「怒らないの?」
『怒ってたよ』
「怒り続けないの?」
『自分が悪かったんだ。怒れないよ』
二つの光の内の一つが、ふわりと白い地面に降り立った。ぼんやりと象るそれが人型だということだけは分かるが、はっきりとそれが誰であるかまでは分からない。
人型をとった光の手がもう一つの光へと伸ばされる。
「痛かったね」
『……うん』
「あの人の心も、痛かった」
『……そうだな』
人型は浮いていた光を手に乗せて、それを頬に当てる。同調するように、淡く光が点滅を繰返した。
「辛いね」
『うん』
「苦しいね」
『……うん』
優しく優しく、その手が光を撫でる。
「でも、それだけじゃ、ないよね?」
『……うん』
「怖い、ね」
『……っ、……うん』
「たくさんたくさん、怖いこと、あったもんね?」
『……、……』
人型が撫でている光が細かく振るえ始めた。何かを思い出して怯えているようだ。
人型はそれに構わず、優しく撫で続ける。
「泣いても良いよ」
『でも……』
「大丈夫。ここには誰も来ないから」
『……本当に?』
「うん。本当」
『そっか……』
人型を取っていた光が、微笑んだ。震えている光を抱きしめて、慈しむように。
「頑張ったね」
『……うん』
「頑張り、過ぎちゃったね」
『……そうかな? ……全然、足らないよ』
「ううん。頑張り過ぎ、だよ」
『……』
「だから、休もう?」
『……でも……』
人型の手の中で、ふわふわと光が浮かぶ。
「あとは〝皆〟にまかせて、今はゆっくり休もう?」
『……うん』
光が人型の手の上に静かに乗った。人型はゆっくりと光を優しく撫で始める。その振動で光が揺れる。ゆらゆらと、まるで揺り篭のように。
それを見た人型は、穏やかに笑って言った。
「……起きたらまた、話そうね」
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