溢れる知識と、留まることを知らない欲を持った空色の瞳は、
静かな時を刻む海色と、畏怖の力を持つ赤色の色違いの瞳に射抜かれた。
故郷では〝神童〟と呼ばれ、もてはやされていた。
物心ついた頃に両親を病で亡くした自分は、周りの期待に答えようと必死になって勉強した。
だが、神童と呼ばれる自分の前には、いつもある人物が立ち塞がっていたのだ。
その人物の名前は〝ジェイド・カーティス〟――旧姓、ジェイド・バルフォア博士。
十二歳の時にグランコクマ士官学校へ入学した時も、〝ジェイド・カーティスの再来〟と言われ、
酷く嬉しかったのを覚えている。
あの人の存在は自分にとって、憧れであり、目標であり、同時にライバルでもあった。
一時期、彼が研究していた内容の履歴を何度もなぞり、没頭したことがある。
〝死霊使い(ネクロマンサー)〟と呼ばれていた彼が何を考え、何をしようとしていたのか、
そして一体何を得ようとしていたのか、一晩中考えたこともあった。
それは幼い子供がよく憧れるヒーローのようで、自分はそのヒーローが彼であったというだけ。
しかしどんなに頑張っても、自分はいつも彼の次。
どうにかしてその順序を変えてやろうと必死に頑張った時期もあったが、残念ながらそれは未だに叶ってはいない。
――自分はただ、彼が歩んできた跡を追っているに過ぎない。
それに気付いた時には、すでに遅かったのだ。
マルクト帝国の首都、水の都と謳われるグランコクマの中に存在する王立譜術・譜業研究所。
士官学校を卒業し十六歳となった自分は、今までの業績を称えられてここに入ることになった。
配属されたのは、とある研究室。
研究所に入るなり、己の上司となる研究室長――シエンから紹介を受け、
担当することになるであろう部門の説明を受けた。
「〝特殊な人間が持つ潜在能力を譜業化する研究〟……ですか」
こつこつと足音が二人分。
廊下に次々と差し込む光が行く先を案内してくれているように見える。
「そうだ。これが出来るようになれば、医療関係だけでなく多方面にも有効に活用できる可能性が広がる」
彼から「まずは研究室へ」と言われて案内された部屋は、他の研究室よりも少し奥まった所にあった。
「ここはかつて……〝サフィール・ワイヨン・ネイス〟博士と、今は軍に入隊し、大佐の地位に留まっているが……。
〝ジェイド・カーティス〟博士が、フォミクリーを研究していた部屋の一部でもあるのだよ」
「ここが……」
――ここで。
辺りを見回すと、様々な譜業機関がせめぎ合う様にして設置されていた。
「室長……、これは?」
その中でも目に付いたのは、研究室の中央に配置されている全面がガラス張りになっている個室。
大きさは人一人が入れる程度といった所か。
「あぁ、これは……潜在能力を持つ人間が入り、その能力値を計測する装置でね。
その影響が及ばないように、全面に特殊なフィルター加工を施してある。
そうだな……これから君は我々の研究に携わって行くのだし……」
室長はそう言ってガラスの個室から離れると、そこからさらに奥にある部屋へと歩を進める。
しかしその目的の場所に近付いていくにつれ、異常な雰囲気を感じとった自分は思わず眉根を寄せた。
「能力者が住んでいる部屋だよ。この部屋全体は常に我々の監視下にある」
案内された部屋は、部屋というより〝牢屋〟と言った方が良い程仰々しいものだった。
先程の個室と同じように全面がガラス張り。
よってこちらからは部屋の中が丸見えな上に、さらに今度はその部屋全体が鉄格子で囲まれている。
「驚くのも仕方が無い。何しろ〝彼女〟の能力が少々やっかいなものでね。
ここにあるガラスにも、先程の個室と同じような加工がされている」
その部屋の中には簡易ベッドと、少々の生活用品という本当に粗末なものだった。
奥にあるのは、手前のガラスと同じように鉄格子を付けられた、窓とは呼べない程の大きさの穴。
そこから僅かに差し込む光だけが頼りになる部屋の中で、
蹲(うずくま)るようにして座っていたのは痩せ細った一人の少女。
「紹介しておこう。彼女の名は〝クリス・サングレ〟」
そう言われてまず目に入ったのは、白く輝く長い髪。
こちらを窺っている左目は、紺から緑にかけてのグラデーションという不思議な色合いが。
そして長い前髪によって隠されている右目には、血のように赤いブラッドレッドが収まっていた。
――その有り得ない美しさに、一目で心を奪われた。
「クリス。隣にいる彼は、今日からここに配属される〝モルダ・エスパシオ〟だ。覚えておきなさい」
オッドアイの瞳が自分を射抜く。
そして彼女の唇が小さく動いたのが、ガラス越しに見えた。
「……空……」
「――え?」
一瞬自分は、彼女が何を言っているのか分からなかった。
結局その意味を問えないまま、シエン室長に促されてその場を離れる。
「興味があるなら、これに目を通しておくといい」
彼はそう言いながら研究室内にある机の上に視線を泳がせ始める。
そして目当てのものに辿り着くと、それを持って自分の元に戻って来た。
そうして渡されたのは、分厚い書類。
「その中には彼女に関する全ての情報と、これまでの実験結果についてが記載されている」
「実験……」
「それを読めば分かると思うが、彼女は生まれた時から片方の瞳に強い暗示能力を携えているんだ。
君も見ただろう?――あの赤い瞳だよ」
その晩。
宛がわれた寮の部屋で、自分は早速室長に渡された書類に目を通すことにした。
【識別コード:S-SI02に関する事項。
対象名:クリス・サングレ。現在十四歳。
右目にその視界に映る全ての生物に対して、強い暗示をかけることが出来る瞳(以下〝邪視〟とする)を持つ。
邪視の力はかなり強く、対象が認識出来る周囲の生物を撫でるように見るだけで暗示をかけることが出来る。】
びっしりと書かれた内容を一文字も見落とさないように読んでいく。
しかしこれから担当する研究の為に――と思っていたのが、
読み進めていく内に段々〝クリス・サングレ〟という人物に対しての興味が沸いてきたのだ。
(彼女は二歳の時から、あそこにいるのか……)
〝邪視〟と呼ばれる強すぎる力は、彼女の両親を恐れさせるには充分な威力だったのだろう。
ただでさえあの不思議な色合いの両目は、人の目を引く。
そして、その力を気味悪がった両親はどうすることも出来ずにあの研究所へ連れて来たのだ。
その境遇を考えると、彼女には同情せざるを得ない。
両親の愛情を知ることなく、毎日のように繰り返される実験。
しかも先だってのケセドニア北部戦では、兵器として扱われたようだった。
――自分なら、そんなことはさせない。
――二人で静かな所で暮らして……
何故かふいにそんな考えが浮かび、慌てて頭を振ってそれを散らす。
(……何を考えているんだ僕は。彼女は〝研究対象〟だろう?)
だからこんな感情は持ってはいけない。
――持っては、いけないのだ。
翌日からすぐ研究が始まり、忙しい日々を送った。
彼女を取り巻く音機関と、それを取り囲むようにしている研究員がせわしなく動く。
自分も一時は同情してしまったとはいえ、彼女の能力は自分にとってかなり興味深いものだった。
彼女のデータを全て頭の中に叩き込み、どうすればその能力が譜業化出来るかを毎日のように考えていく。
だが同時に、彼女の弱々しい身体に実験器具を装着するのが心苦しくもあった。
「きつくないか」、「痛くないか」と気遣いの言葉をかけても、彼女は無表情でこちらを見るだけ。
それが少し、悲しかった。
そしてこれはここへ配属されてから気付いたことだが、ここの研究員達は彼女を決して名前では呼ばない。
全て識別コードである『S-SI02』と呼んでいた。
もちろん名前だけではない。
扱い方も人間のそれではなく、まるで物のようにぞんざいに扱っていた。
理由を聞けば、「感情が無い方が、こちらとしては好都合だから」らしい。
「――ですが、彼女は人間です。研究対象だとしても、そんな風に扱うのはどうかと思いますが」
「感情が単純であるほど、暗示効果が高いんだ。
博識な上に紳士であるモルダさんには、理解して頂けないかもしれませんがね」
研究員達の彼女に対しての行動が目に余るものだったので、一度注意したこともあったが、
反論して来る彼らの表情からは、妬みと僻(ひが)みしか見えなかった。
その後何度も彼らと衝突したが、その度に場を収めてくれたのはシエン室長だった。
「モルダ君、君の言いたいことも分かるが……研究のためなんだ。
君も研究者なら知りたくはないかね? 彼女の持つ暗示能力に秘められた無限の可能性を」
そう言われてしまえば、自分は口を閉ざすしかない。それは事実だったから。
しかし、だからと言って彼女を物のように扱いたくもなかった。
せめて自分だけは――そう思った自分は、研究員の目が届かない所でガラス越しのクリスに根気良く話しかけ、
言葉を教えようと試みた。
話す内容は他愛もないことだった。
例えばその日の天気とか、体調はどうだとか、単純なことを話しかけて教えていく日々。
最初こそ警戒していた彼女だったが、そうしていく内に段々と心を開いてくれるようになった。
(と言っても急激な変化はなく、その反応は微々たるものだったけれど)
「そういえば初めて会った時、僕に『空』って言ったよね。あれは何だったの?」
「……モルダの目が、空に似ていたから……」
「そっか……。じゃあ、クリスの左目は〝海〟だね」
「海……?」
不思議そうに彼女が首を傾げる。
そうだ、彼女はここから出たことがないのだ。
それ所か、空だってちゃんと見たことはないだろう。
もしかしたらケセドニア北部戦で見たかもしれないが、戦渦の中で見た空など見た内には入らない。
「……いつか、見せてあげる」
――それは、何て、悲しい。
その内、自分はガラス越しに話しかけることがもどかしくなり、
彼女の右目の能力だけを覆い隠す特殊なフィルターを施した眼帯を作り出した。
今までは彼女を移動させる際に右目を包帯でぶ厚く隠していたが、
それでは手間がかかる上に嫌でも目立ってしまう。
それに片目だけでは距離が掴めないのか、よくあちこちに身体をぶつけていた。
しかしこの眼帯ならば、彼女が持つ暗示能力だけがシャットアウトされるため、視覚には影響がない。
それが出来上がった時、他の研究員達は「これで連れ出すのが楽になる」と喜んでいたようだが、
自分にはまったくそんなつもりはなかった。
これを付ければ、彼女は何の不自由もなく動き回れる。
――いつか彼女に、その左目と同じ色の海を見せてあげたい。
その思いだけが、自分を突き動かしていた。
「……これは?」
「君のために作ったんだ。これを付けていれば君の能力が外に漏れることはない」
彼女の長い髪を優しく掻き分けながら、出来上がったばかりの眼帯を取り付ける。
「どうかな?」
彼女はくるりと方向を変えて、じっと自分を見つめた。
恐らく、自分の言ったことが本当かどうかを確かめているのだろう。
そしてそれが本当であると分かった時。
「……嬉しい」
と、初めて彼女が笑ったのだ。
ぎこちない――それはとてもぎこちない笑顔だったけれど、打ち震える程の歓喜を覚えた。
自分に対して笑んでくれたことが、本当に嬉しかったのだ。
(あぁ、そうか。僕はクリスが……)
――好きなんだ。
それを自覚してからというもの、自分の心に変化が訪れる。
今までは、彼女の能力を知りたいだけだった。
そしてそれを譜業化することが、自分の使命だと思っていた。
しかし、クリスへの気持ちに気付いた今は、〝彼女の能力を調べ尽くしたい〟という気持ちと、
〝彼女を知りたい〟という、相反する気持ちが自分を支配していた。
そしてその気持ちは日に日に募っていき、ある日自分はついにその想いを彼女にぶつけてしまう。
ここから出たことがない彼女にとって、この感情が理解出来ないことは分かっていた。
分かっていたけれど、伝えずにはいられなかったのだ。
だが――
「……モルダのことを考えると、胸が痛い。離れると寂しいし、一緒に居て欲しい、と思う。
これがモルダの言う……〝好き〟ってことになるのなら、私もモルダと同じ気持ち」
そんな自分の考えとは裏腹に、彼女はその身を持ってその感情を理解してくれていた。
この時ほど、神に感謝したことはない。
それからというもの、自分達は他の研究員達の目の届かない所で逢瀬を交わし始めた。
(何人かは気付いていたようだが)
もちろん邪視についての研究も進めていたが、
クリスと恋仲となってからはそれを譜業化することなど二の次になっていた。
彼女自身の力で邪視の制御が出来ればと、
そしてあわよくばその力が失われてしまえばいいとさえ思うようになった。
そう思うことは、自分にとっても初めての経験だった。
これまで何度か人を好きになったことはあるが、こんな風に包み込むような、
大事にしたいと思えるような感情は無いに等しい。
そしてその感情が、自分の研究欲を上回ることも初めてだった。
「これが……〝幸せ〟って言うものなのかな……」
ぽつりと何気なく呟いた言葉。
それを不思議そうな顔で聞くクリス。
「〝幸せ〟?」
「あぁ……まだ教えてなかったね。ええと……何て言ったらいいのかな」
頭では分かっているが、それを教えようと思うとすぐに言葉が出てこない。
何通りもの単語が頭の中を飛び交うが、ぴったり来るものが無い。
どうにかこうにか繋ぎ合わせた言葉で、たどたどしく彼女に説明を始めた。
「色んな欲望が……満たされることかな」
「欲望?」
「例えば……、あれをしたいとか、あそこに行きたいとか、誰かと一緒に居たいとか……。
自分がしたいと思ってることが満たされると、嬉しいし安心するだろう?」
上手く言えただろうか。
分かってくれただろうか?
そう思っていると、ふいにクリスの手がそっと自分の手を取った。
「じゃあ……こうしていられる私達は、とても〝幸せ〟、ね?」
そう言って、幸せそうに微笑んだ。
その笑顔が嬉しくて、自分も同じように微笑んだ。
――願わくば、ずっとこの優しい時間が彼女に訪れますように。
だが、そのちっぽけな願いすら、彼女には許されていなかった。
翌日、クリスは数人の研究員と共に姿を消した。
「無理です! これ以上の実験は、彼女の身体に負担をかけるだけです!
下手をすれば彼女が死んでしまう! そうなれば、能力を譜業化する研究が……!!」
「……残念だがね、モルダ君。これは上からの決定事項なんだ。やめるわけにはいかない」
「じゃあ彼女が死んでも良いということですか!?」
「S-SI02の〝充分な〟データはすでに取ってある。
例え彼女がいなくなったとしても、我々は存分に研究を続けることが可能だ。
こんなことを言う暇があったら、彼女の延命作業でもしていたらどうかね」
室長の言葉に、激しい怒りが湧き上がる。
〝近郊での能力範囲の調査〟と銘打ち、数人の研究員と共に研究所から連れ出されたクリス。
自分は何故かそのチームから外され、彼女について行くことは敵わなかった。
そうして数週間が経った後、帰還した彼女の身体は何故か酷く弱り果て、
能力の使い過ぎとは思えない程に身体を構成する音素が微弱になっていた。
自分はそれを押してまで実験を続行しようとする室長を止めるため、抗議をしに来たのだが――この有様だ。
取り付く島もないままに研究室へと戻る。
部屋の中には全員出払っているのか、自分と彼女以外誰もいない。
奥の部屋には、ぐったりと横たわるクリスの姿。
話も出来ない程、弱っているというのに。
このままいけば、恐らく彼女は……――いや、それももう時間の問題だった。
「……クリス! クリス!! 返事をして!」
呼吸が段々小さくなっていく。
ヒューヒューと喉を通る音が、痛々しげに聞こえた。
「クリス……」
「……ル……ダ……」
脈をとる。
鼓動が、小さい。
体温が、下がっていく。
彼女の小さな手が、ゆっくりと右目にあてられている眼帯に向かう。
そしてそれを取ってくれとでも言うように、かりりと指で引っかいた。
自分はそれに素直に従い、眼帯を外す。
――外したそこには、鮮やかな赤い色。
「僕に……暗示をかけようとしているの?」
そうすることで何かを伝えようとしているのかもしれない。
だが、いつまで経っても自分の身体が動くことはなかった。
「クリス……何を……?」
自分にどんな暗示をかけたのかを問おうとした時。
――彼女が、ふわりと微笑んだ。
「だ……、駄目だ……」
「……」
「駄目だよ、クリス! まだ駄目だ! だって、まだ僕は君に海を見せてない……!」
「……」
「いつか言ったじゃないか! 見せてあげるって! だから一緒にっ……!!」
「………………」
「一緒……に……」
唐突に浮かんできたのは、いつか彼女が言った言葉。
――『……空……』――
出会った当初は、上手く話せなかった。
――『……嬉しい』――
簡単な言葉に、単純な想い。
――『……モルダのことを考えると、胸が痛い。離れると寂しいし、一緒に居て欲しい、と思う』――
それがいつからか深くなり、自分の心を打つようになった。
――『これがモルダの言う……〝好き〟ってことなら、私もモルダと同じ気持ち』――
やめろ、やめてくれ。これじゃ、これじゃまるで……。
――『じゃあ……こうしていられる私達は、とても〝幸せ〟、ね?』――
死に逝く者に対しての……――
ぱたりと落ちた彼女の手。
その表情はどこか安らいでいて。
彼女の服に滲みこんでいくのは、自分の瞳から流れる雫。
ぽたり、ぽたりと一つずつ、それは増えていった。
――冷たくなった身体。
――辺りは、無音。
ただ、彼女の身体に繋がれていた音機関だけが、定期的に動いていた。
握っていた眼帯を衝動のままに打ち捨てる。
それは足元でカシャンと音を立てて割れた。
彼女の身体を支配していたコードを、一つ一つ丁寧にとっていく。
身体に傷がつかないよう細心の注意を払いながら。
そうして、血の気のなくなった彼女の身体をそっと抱いて、自分は研究所を後にした。
「君に……見せたい場所があるんだ」
一歩一歩、確かめるように歩く。
「気に入ってくれると……良いんだけど」
腕の中にいる彼女の身体をしっかりと抱き締めて。
「……あぁ、見えてきた。ほら、クリス。あれが……〝海〟だよ」
目的の場所に到着すると、彼女に一度笑いかけて、視線を上に上げた。
「……君の……左目の色だ」
目の前に広がるのは、紺から緑にかけてのグラデーション。
見上げれば、それに負けないぐらいの青。
遠くでは寄せては引く波の音が聞こえ、緩やかに吹く風が彼女の白い髪を揺らしている。
研究の合間を縫って、海と空が見える場所を探していた。
そして、研究所からそう遠くないこの場所を見つけた。
ここなら、彼女の身体に負担がかからないだろうと思って。
「……さ……ない……」
外出許可をもらって、街の雑貨屋で食料を買って、ここに来よう。
よく晴れた日は、空と海の両方が見えるこの場所に。
「絶対に……、許さない……」
君が「空」と言ってくれた瞳と、自分が「海」と言った瞳を揃えて、いつか二人で見れたらと思っていた。
――その願いは、もう、叶わない。
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