心はまだ震えていて。
でもあの光に会いたくて。
真っ白い空間で、光が瞬いた。
小さく点滅するそれは、まるで瞬きをしているようだった。
「……起きた?」
『――うん』
「おはよう」
『……おはよ』
人型が手の中の光を空間へ浮かべた。光はそのまま空中を漂うようにふわふわと揺れている。
「ゆっくり休めた?」
『多分……』
「そっか。良かった」
『……うん』
――くるり。
人型が回る。重力を感じさせないように、くるくると。
「〝皆〟が頑張って動いてくれてるよ」
『え……?』
「誰のため、だろうね?」
『そんなの……』
「……分からない?」
『……期待しちゃ……駄目だ……』
「……そう?」
『皆は……皆の考えが、あって……』
「ふうん?」
――また、くるり。
人型が光の方に向かって回転した。手で優しく撫でるように光を包む。
「じゃあ、どうして〝あの人〟は来てくれたのかな」
『〝あの人〟……?』
「呼ばない?」
『何を?』
「心が、呼ばない?」
『心が……?』
「そう。心」
人型が何もない空間へ手を伸ばす。
指先がゆるい円を描くと、周囲に小さな音が響いた。
――……リィン……――
『あ……』
「この音が、心の音」
『うん……〝分かる〟』
「よく聞いて?」
――……リィ……ン……――
『誰かを――呼んでる?』
「それが誰だか、分かる?」
『……ううん』
「……そう。まだ、癒えてないんだね」
光がゆっくりと空間を漂う。音の音源を探すように。
『……何だろう。あそこへ行きたい、かも……』
「行ってみる?」
『ううん……』
「行っておいで?」
『怖いよ……』
「怖かったらまた、ここへ戻って来れば良いから」
『でも……』
「呼んでる、だろ?」
――パチン。
人型が指を鳴らすと、途端に何かの音が辺りに響く。
――≪……!≫――
それに共鳴するかのように、先程人型が言った〝心の音〟が鳴った。
――リィィ……ン――
『あ……』
「ほら……、呼んでる」
『じゃあ……ちょっと、だけ……』
「うん。途中まで送ってあげる」
人型が光をそっと手の中に閉じ込めた。そしてそのままゆっくりと浮上を始める。
頭上から注いで来るのは、光。その向こうにうっすらと見えるのは――紅。
人型は手の中の光を見て微笑む。
「ここからは、あの紅色を目指して行けば良い」
『……うん』
「……〝怖い〟と思ったら、すぐ戻っておいで?」
『……分かった。……行ってみる……』
「……いってらっしゃい」
人型の手から離れた光が、紅色を目指して上昇を始めた。
人型はそれを見送りながら、ぽつりと呟く。
「……駄目だったら、……やっぱり持ってくしかない、かな」
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