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第一章 Hide 09
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第一章 Hide 09




セレニアの花が舞う。

まるで雪のようだ、と思った。




 本物である〝彼〟が姿を現した瞬間、彼のレプリカだというルークの表情が花も綻ぶような笑みに変わった。
 (あれが、〝ルーク〟の被験者……)
 ラズリは崖下に見えるルークの被験者とされる彼を、まじまじと見詰める。
 ルークが元は男だったということは、本人の口から聞いていた。だが、ルークの身体が女性のそれになったとしても、少しは似ている部分があるだろうと彼女は思っていたのだ。
 しかしいざ被験者である彼を目の前にすると、その考えが間違っていたことが分かる。
(顔は確かに似ているかもしれないけど……)
 いや、少しどころか全然似ていない、とラズリは思い直す。
 一つは、外見の違い。遠くから見る限りでも、明らかに表情の造り方がまるで違う。
 そしてもう一つは、やはり男女の差。体格の違いだろう。
 ちらり、とラズリは隣で熱心に崖下にいる彼の姿を追っているルークの方に視線を寄越す。それを良いことに、彼女はまじまじとルークの身体を上から下まで確かめるように見詰めた。
(ローレライという存在は……こんな芸当が出来るのね)
 今のルークは、どこからどう見ても女で。それこそ以前は男だったなんて、嘘ではないかと疑ってしまう程。
(でも……もし……)
――もし、自分にもルークと同じような出来事があって。自分が女から男になることがあったなら。
(ラピスを……)
 自分の被験者を、堂々と守ることが出来たかもしれない、とラズリは思いを馳せた。
 
 空の上から無事帰還した〝彼〟に、かつての仲間達が駆け寄っていくのがルークの視界に映る。
 その記憶にある紅い髪の彼は、最後に会ったときよりも等身が伸びていた。ローレライが実年齢に合わせたのだろうか。
 (良いなぁ。背、伸びて。俺は逆に縮んじゃったよ)
 成長したその姿をルークは少し羨ましく思う。
 ふとルークが視線を隣に移すと、そこではラズリが興味津々といった様子で彼を見ていた。
(そんなに珍しいのかな?……って、そっか)
 よく考えればラズリも、ルークと同じように被験者と関わっていたのだ。興味があるのも当然のことだろう。
 そう納得したルークは再び視線を崖下に戻す。すると眼下では夜の渓谷は危ないと判断したのだろうか、合流した仲間達がぞろぞろと移動を始めていた。
(でも……良かった。ちゃんと……生きてる)
 ――生きている。
 もうあのときのように血の気が失せた顔ではない。ちゃんと生きて、動いている。それだけで良かった。
 そうして思い耽っていたせいでルークは気付かなかったのだ。
 いつの間にかその髪色が、緑から朱へと戻っていたことを。
 
――譜歌が聞こえた。
 アッシュが静かに目を開けると、そこは白い満月と満開のセレニアの花が視界一杯に広がっていた。そしてそこから少し離れた場所には、見慣れた顔ぶれが揃っている。
 その中で先まで譜歌を歌っていた人物がアッシュに気付いたのか、驚いたように目を見開いた。
「……どうして……ここに……?」
――どうして?
 それはこちらが聞きたいぐらいだとアッシュは思う。
 有無を言わさず生き返らされ、わけが分からぬまま叩き出されるようにここへ送られた。
――だが、
「ここからなら……ホドを見渡せる」
――約束を、していたのだろう?
「それに……約束してたからな……」
 無事、仲間達と再会を果たした。あいつの約束は、とりあえずこれで守られたことになるだろうとアッシュは結論付ける。
 では、いよいよ伝えなければならない。彼は〝ルーク〟ではないことを。
 アッシュは今までの表情を一転して変える。これだけで周囲には伝わるはずだ。
――〝ルーク〟の仲間として、常に行動を共にしていた彼らにならば。
 案の定、いち早く彼の表情の変化に気付いたのは、金髪の青年だった。 
「お前……ルーク、じゃないな。……アッシュか?」 
 無言は肯定。
 ガイのその言葉に亜麻色の少女が再度目を見張り、「嘘……」と呟きながら手を顔で覆った。
「本物……?」
「本当に……アッシュ、ですの?」
 さらりと毒づく黒髪の元導師守護役と、こうなると懐かしささえ覚えるアッシュの幼馴染である姫は驚愕の表情をとっていた。中でも一番食えないと思ったのは、その後ろで黙ったまま控えている赤目の軍人。
「……どちらにしろ、戻って来たこと自体は喜ばしいことです。先程も言いましたが、夜の渓谷は危険です。長話になるでしょうし、とりあえず場所を移動しましょう」
 彼は特有の癖である眼鏡のブリッジを指で押し上げながらそう言った。それに頷いて、こちらを見たのはナタリアだった。
「……そうですわね。アッシュ、例えあなただけでも、帰って来て下さって嬉しいことに変わりはありませんわ」
 そう言って彼女は泣きそうな顔をしながら微笑む。それに賛同するようにガイやアニスも頷いた。顔を覆い、静かに泣いていた少女も、僅かにだが頷く。
 それぞれに帰還を喜んでくれる仲間の声に、アッシュの顔が少しだけ赤く染まる。素直に喜べば良いものをと、自身で思いながら内心苦笑した。
「……ここは危険なんだろうが、早いとこ離れるぞ」
 アッシュがその表情を見られないように隠し、早々に渓谷を去ろうとしたそのとき。
――リィン……――
(――?)
 どこからか、鈴のような音が聞こえた気がした。
 アッシュは「気のせいか?」と首を傾げて、再び歩を進めようとする――が。
――リィイン……――
(……また、鳴った)
 どこか彼を引き止めるように鳴る音。加えて何かが呼んでいるような気がして、アッシュはその音が聞こえて来た方を見上げる。
 視線の先には滝があった。その流れ落ちる滝の崖上に一人――いや二人。月に雲が掛かっているため、ちょうどそこが陰になって顔は見えないが、こちらを窺うようにして身を乗り出していた。
 向こうもそれは同じなようで、こちらの動きが分からないらしい。
(敵か……?)
 アッシュはそう思い、いつの間にか腰に差してあった剣の柄に手を当てた。殺意はない。怪しい動きを取るようにも見受けられなかったので、どうやら敵ではないようだと判断する。
 では何故、こちらを見ているのか。
 そしてそのときを見計らったように、薄い雲から満月が顔を出し、辺り一帯が照らし出される。そうして照らし出されたのは。
――朱い、髪 に 碧の、瞳。
「「――っ!!」」
 一瞬の出来事に互いが目を見張る。
 しかし、向こうがいち早くそれを察知したようだ。あっという間に崖上にいた二人の影が見えなくなっていく。二つの影が視界から消えるまで、アッシュはしばし呆然としていたが、すぐさま駆け出してあとを追った。
 目指すは渓谷の出口。
(見間違い……? いや、間違いない! あれは!)
――あの存在は、かつて自分と共にあったモノだ。
 はじかれたように駆け出したアッシュを、仲間達が追い駆けて来る。彼が何の考えもなくそのような行動をとらないということを、充分に知っているからだ。アッシュにとってはそれが少しくすぐったい。
 息をすることも忘れてひたすら出口まで走る。だが、そこへ着いたときにはすでに遅かった。二人の気配が完全に消えていたのだ。
「くそ……!」
 全力で走ったせいでアッシュの全身の血が身体中を駆け巡る。
(何故、逃げる……!)
 ローレライが『仲間達と会うことを良しとはしていない』と言っていたのが、関係するのだろうか?向こうが会いたくないと思っていても、周囲はルークの帰りを待っていることに変わりはないのに。
 駆け出したお陰で彼の乱れた呼吸が落ち着き始めた頃、ようやく追い付いた仲間達が一体何事だと近付いて来た。
 何から話せば良いのか分からなかったアッシュは、一つ息を吐いて話し始める。
「ローレライが、言っていた」
 彼の腰には、何故か第七音素で出来た鍵。解放された今では、こんなもの必要ないだろうにとアッシュは思う。
「〝聖なる焔の光は、新たなる光を伴い、新たなる場所で息づいている〟」
 彼から伝えられた内容に、仲間達の表情が強張る。
「あいつは、……〝ルーク〟は、生きている」 
――絶対に、見付けてやる。 あの燃えるような焔の朱を。
 仲間にルークの生存を告げながら、アッシュはそう固く心に誓った。



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赤毛2人に愛を注ぐ日々。