忍者ブログ

[PR]
Hide And Seek

管理人が飽きるまで赤毛を愛でるサイト

第六章 Stagnate 外伝 Jasper
Hide And Seek

管理人が飽きるまで赤毛を愛でるサイト

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

第六章 Stagnate 外伝 Jasper




赤い、紅い。

それはまるで、太陽のような光。




――ころん

「……?」

仲間達がベルケンドを発って数日。

先程まで起きていたルークは、ベッドの上ですやすやと寝息を立てていた。
きっとまったく映ろうとしない視界に、気を張り続けて疲れたのだろう。
そう思いながら、アッシュが部屋に運び入れた仲間達からの荷物を整理していた。

女性三人組が見繕ったという大量の衣類の他に、ガイやジェイドからの荷物も混ざっている。
どうせならついでにと、まとめて送って来たのだろう。

衣類は後で整理した方が良さそうだと考え、先にガイとジェイドの荷物を開ける。
ガイからは、ルーク宛の手紙と練習用の木刀が。
ジェイドからは、〝リア〟のアジトで回収したと思われるルークの剣と荷物だった。

ガイの荷物は後でルークに渡すとして、目を引いたのはジェイドの荷物の方だ。
ルークが所持していたそれらは、どれも過酷な旅を思わせるには充分な程汚れていて、
その中でも特に使い古されたウエストポーチは、あちこちが破れかけていた。

しかし幸いにも、縫えばまだ使える程度のほつれだったので、中身を取り出して繕ってしまおうと思い立つ。
どうせルークが起きるまでは時間を持て余しているのだ。

そうして小銭入れやアイテムなどを机の上に並べていた所、
ポーチの底に身を潜めるように小さくなっていた赤い袋があるのを見付ける。
その中から出て来た物が、今現在自分の手の中に収まっているのだ。

「……石?」

ころころと手の中で転がるそれは、赤い石。




――……酔いに酔った丑の刻……――

――空に見えるは真ん丸の……――


「『白く輝く淡い月』……か……」

――ひっく

酒を飲むとしゃっくりが出るという話は本当らしい。
ルークの足元はふらりふらりと覚束ない様子で、浮かぶように路面を歩いている。

ここは砂の街ケセドニア。

ルークは酒場でアンチレプリカ組織〝リア〟の情報収集を終え、宿へと戻っている途中であった。
その場にいた気の良い男連中に嫌という程飲まされ、ルークもまたそれに気を良くし、
酒場の亭主に苦笑されながら、「そろそろお開きにしたらどうだ」と止められるまで飲んでいたのだ。

酒の効果で熱く火照った身体に、外気の気温は心地よかった。
鼻歌まじりで異国の歌を思い出しながら歩いていると、珍しいものを見かけて立ち止まる。

視線の先には、路地に敷かれた布の上に色とりどりの石が並べられていた。
それを見守るように、優し気な白髪の老女が石壁にもたれている。

こんな時間に露店かとも思ったが、どうやらそうではないらしい。
石には値札が付いていないし、石の主と思われる人物も客を呼び込むような素振りは見せていない。
ただじっと、時が過ぎるのを待っているかのように見えた。

そんな興味津々といった視線を隠しもせずに送るルークに気付いたのか、白髪の老女がこちらを見て笑う。

「気になるのでしょう? 私が何をしているのか」

「遠慮せずにこっちへいらっしゃい」と声を掛けられたので、ルークは遠慮なく素直に従うことにする。
ふらふらと揺れる体が、少しの休息を、と叫んでいたせいもあった。
その足取りを見て、「随分飲んでいるのね」と老女は笑う。
ルークは照れ臭そうに笑い返しながら、老女の近くに腰を掛ける。

体内に溜まっていた酒臭い息を吐き出しながら空を見上げると、そこには白い満月。
上を向いた拍子に被っていたフードが落ちたが、酒場を出た今となっては顔を見られても気にすることは無いだろう。

「ここで何してるんだー? 商売、じゃないよなぁ?」

ルークはふにゃふにゃと篭る様な声で聞いた。
老女は、その可愛らしい問いかけに微笑みながら答える。

「……石達にね、〝月光浴〟をさせているのよ」

「月光浴ぅ?」

老女が言うには、古来より大自然が気の遠くなるような時間を費やして出来た天然石には、
不思議なエネルギーが宿るらしい。
その効果には精神を安定させるものや、熟睡・不眠を解消するといった心身を癒すもの。
また、人が持つそれぞれの運気を上げる効果もあるらしく、
健康運から金運、果ては恋愛運までサポートするものもあるようだ。
そういった理由からか、主に男性より女性に人気があるらしい。

(女の人って、宝石とか占いとかお守りとかって好きそうだもんなぁ。
あぁ……そういやラズも付けてたっけ……)

酔った頭の中に、以前共に旅をしていた蒼髪の女性の顔が浮かぶ。
今はレムの塔で仲間達と共に過ごしているのだろうか。

そう考えている間にも、老女の説明は続く。

そんな力のある天然石だが、身に付けていると次第にそのエネルギーが弱くなっていくという。
その失われたエネルギーを補う為には、〝浄化〟という方法で再充填させなければいけないらしい。

〝浄化〟は、土に埋めたり流水にさらしたり、天然塩に乗せたりと幾通りもの方法があるが、
その中の一つに、新月以外の月光にさらす〝月光浴〟というものがある。
聞けば老女は、その月光浴をここで行っていたのだと言う。

「本当はね、月だけでなく太陽にも同じ効果があるのだけれど……。
日中は私には店があるし、何よりここら辺りはとても賑わうでしょう?
だから皆が寝静まった深夜に、ここを拝借しているのよ」

ルークはうん、と頷きながら両手を月光に翳した。

「……確かに月の光が当たってる所って、いつもと違って見えるもんなぁ。ここなんて、まるで月の床みたいだ」

そう言ってふわりと笑う。

満月から照らされる光。
その光度は決して太陽のように強くはないが、それでも辺りを照らすには充分な光だ。
白く淡いそれらは、床に並べられた石達に優しく注いでいる。

「こんなに優しい光を浴びたら、石達もきっと喜んでるだろな」

ひらひらと舞うように振られるルークの白い両手。
その様子を見ながら、老女は思う。



――不思議な子だ。


もちろん酔っ払っているせいもあるだろうが、
自分の話に耳を傾け、さらにはこの石達に共感してくれる人物など、少なくともこの街にはいない。
それに、身なりは充分な大人(服装は男だが、女性であることははっきりと分かる)であるのに、
その口から紡ぎだされる言葉は直感的なものが多く、まるで子供のようだ。

「……面白い方ね」

老女がぽつりと漏らした言葉は聞こえなかったらしい。
すでにルークの興味は、月から並べられている石達へと移り、それらを物珍しそうに見ていた。

茶色、緑、青。
様々な色の石が並ぶ中で、特に目を引いた石がある。

(あ……、これって……)

つい、とそれを摘み取り、手の上に転がしてみる。
それは赤……とも、紅、ともとれるような絶妙な色合いの石だった。

指先でころころとつつきながら思う。
見れば見る程似ている。


――今も焦がれてやまない、あの紅色に。


「……アッシュに……似合いそうだなぁ……」

「それが気になる?」

小さく溜息をつきながら言った言葉に答えが返ったことに驚く。
小声で言ったつもりが、思ったより抑えられてなかったらしい。


「その石はね。〝ジャスパー〟というのよ」


老女は優しく微笑みながら、ルークが持っている石について話し始めた。

「ジャスパーは古くから〝聖なる石〟として呼ばれていて、
身に付けると太陽エネルギーと共鳴して、その持ち主をあらゆる災難から守ってくれると伝えられているの。
赤だけでなく、他にも緑、黄色、褐色と様々な色があるのよ」

「〝聖なる〟……石……」

老女の説明を聞いた瞬間、脳内に浮かんだ言葉がある。


――聖なる焔の光。


その言葉はいつも、自分に付いてまわっていた。
一時期はそれを疎ましいと思ったこともあったが、同時に嬉しくもあった。

何故ならばそれは〝彼〟の誇りだったから。

自分は偽者だったとはいえ、その誇りを自分にも与えられた。
彼と同じ、〝聖なる焔の光〟という肩書きを。


――自分にはそれを背負う程の価値などないというのに。


「気に入ったのならあげるわ」

石を手に乗せたまま思いに耽っていたルークをよそに、
老女は「袋に入れてあげるわね」と言いながら懐から小さな赤い袋を取り出した。
そしてルークの手の上に乗せられていたジャスパーを掴み、赤い袋に入れようとした所でルークが我に返る。

「ええ!? 大事な商品何だろう? そんなの……!」

駄目だと言い掛けたルークの口を、微笑んだ老女の手が制した。

「良いのよ。これはお礼。あなたとのお喋りがとても楽しかったから」

それに、と老女は続ける。

「人にそれぞれ相性があるように、石にも相性があるの」

相性が良ければ、その石の内に眠るパワーを最大限に発揮することが出来るが、
相性が悪ければ、思うようにパワーを発揮出来ない上に逆効果になることもあるらしい。

「石はちゃんと相手を選ぶの。
あなたが、あなたの思う人に〝似合いそうだ〟と思ったのなら、きっとその石がその人を呼んでいるのよ」

赤い石が赤い袋に収まると、問答無用で手渡される。
ルークがあんぐりと口を開け、手渡された袋を見詰めている間に、
並べられていた石達はあっという間に荷造りされ、気づけば老女は帰路につこうとしていた。

「あ……あの! これ、ありがとう!」

ルークは自分がまだお礼を言っていないことに気付き、慌てて老女の背中に叫ぶ。
すると老女はくるりと振り向き、笑って言った。

「どういたしまして。
それとその石、あなたの〝髪の色〟にとても似ているから、贈られる方も喜んでくれると思うわ」

「上手くいくと良いわね」と言いながら老女が手を振って来る。
ルークはつられて手を振り返すが、そこではたと気が付いた。


「……俺の髪色に似てる?……って、あ!?」


落ちたフードから覗く髪色は、酔って気が緩んでいたせいか元の朱を取り戻していた。
まったく面倒なこの髪は、いつまでも油断ならない。

まぁ良いかと一呼吸置き、宿へと帰るべく腰を上げる。
急激に襲って来た眠気と戦いながら、石の入った赤い袋をウエストポーチにねじ込んだ。

霞む意識と視線の先には、明るみ始めた空が映っていた。




――……ころん

ころころと転がるそれ。

「お守りかしら……?」

自分が知らないということは、ルークが一人でいる時に手に入れたのだろう。
その入手先は定かではないが、大事な物なのだろうということは分かる。

同時に、その石には見覚えがあった。
レムの塔で名前石を作成している時にレピドに教えてもらったもの。

「赤色の〝碧石〟……か……」

その赤は、ルークの色とも、今は母国に『里帰り』している〝彼〟の色ともいえる色。

ラズリは石を元の赤い小袋に戻し、そっと机の上に置く。
そして、少し気合を入れた後、綻びかけたウエストポーチを補修する作業へと取り掛かった。




【A report of the power stone】

【Power Stone Name:Jasper(ジャスパー),
Alias:碧石・碧玉,Mohs hardness:7,Compositional formula:SiO2,Specific gravity:2.65】

【Detail:瑪瑙[めのう]に不純物が入り、半透明から不透明になったものの総称。
赤や緑、黄色や褐色のものが見られ、古来より聖なる石の一つとして数えられている】

【中でもレッドジャスパーは、その色合いや石が持つ力から『太陽の石』と呼ばれている】



第六章 Stagnate 12≪          ≫第七章 Trigger 01

PR

プラグイン

プロフィール

HN:
ちおり
性別:
女性
自己紹介:
赤毛2人に愛を注ぐ日々。