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第七章 Trigger 07
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第七章 Trigger 07

 
 
 
見上げた空はいつものように青く。
 
自分から伸びる何かが、誰かに繋がっていると信じて。
 
 
 
 
何故こんなことになってしまったのだろう。
――というか、自分は何故こんな所で、こんな状態に陥っているのだろうか。
 
普段なら今頃は青い髪の彼女に淹れてもらったお茶を飲みながら、音機関マニアな少年と、
似非芸術家のオカマ(?)と一緒に、将来について語り合っているというのに。
 
「どうしたんですかアンバー? 手が止まっていますよー?」
 
「そうだぞー♪ 折角、この国の皇帝である俺様が直・々・に教示してやっているんだからな。しっっかりメモしとけ」
 
(来たくて来た訳じゃない……っ!!)
 
脱力しかけた我が身を寸での所で奮い立たせる。
現在の自分は、利き手にはペン、逆の手にはノートという出で立ちで、
グランコクマ宮殿内にある皇帝陛下の自室に用意された椅子に鎮座していた。
 
(……どうしてこんなことになったんだ)
 
 
 
赤目の軍人から「二つ目の課題は研修だ」と言われ、こちらの意見などまったく聞く耳持たずに、
あれよあれよと言う間に飛空艇に担ぎこまれてから早一週間。
 
空を飛ぶ飛空艇の中で、「研修というからにはこれが必要でしょうから」と笑顔でジェイドから渡された物は、
真っ白な紙を束ねた簡易ノートとペン。
その利用用途が分からずに呆けていると、
これから各国を回るのでそれぞれの代表者に国の運営や国民統率に対する姿勢など、
気になったことを教えてもらえと言う。
つまりはそれをメモする為の勉強道具らしい。
 
その心遣いは大変有難く思ったが、いかんせん自分はレプリカという模造品である身。
そんな者が簡単に各国の代表者に教えを乞えるものなのかと考えあぐねていたら、
すでに各国の代表者には話をつけてあるらしい。(しかも快く承諾してくれたそうだ)
 
いっそ見事だと拍手を送ってやりたい程のその手筈の良さに、真剣に悩んでいた自分が馬鹿のように思えた。
 
それに逃げ出そうにも、すでに飛空艇は空の上。
こうなったら開き直ってしまおうと腹を括る。
幸い、レムの塔を出る時にリドから通信機を渡されているので、向こうで何かあったらすぐさま連絡をして来ることだろう。
 
それに自分の知らない世界を知ることについては興味がない訳ではなかったし、
リドのお気に入りだというこの飛空艇の乗り心地も思ったより悪くない。
ただ、こんな状況下でなければもっと楽しめただろうにと、それだけが悔やまれた。
 
あっという間に流れていく景色を見ながら、「まずはどこへ行くのだ」と問えば、
ジェイドの後ろにいたナタリアが「バチカルへ向かっている」と答えた。
 
(〝ルーク・フォン・ファブレの祖国〟、キムラスカ・ランバルディア王国の首都、バチカル。
……そういえばナタリアの祖国……いやそれ以前に、その国の王女だったか)
 
彼女があまりにも親しく話しかけて来るので、ついそのことを忘れてしまっていた。
これからは身の振り方を考えた方が良いかもしれないなと考えながら、遠目に見えて来た街に視線を向ける。
 
――山のように見える無機質な要塞。
 
バチカルの第一印象はそんな感じだった。
仲間達に囲まれるようにして、城の前に立つ。
 
そこで自分(レプリカ)なんかが足を踏み入れて良いのだろうかと戸惑っていると、
隣に立っていたジェイドに「何も恥じることはありませんよ」と笑って言われた。
 
意を決して城の中に入ると、思っていたよりも被験者達が友好的で少々驚く。
そしてこの国の王であるインゴベルト六世陛下も嫌な顔一つせず、紳士的な態度で接してくれた。
やはり世界を救った〝ルーク〟と、その手助けをしたナタリア王女の影響は大きいようだ。
 
その後、ナタリアの発言をきっかけにキムラスカ・ランバルディア王国について学ぶこととなり、
そこで費やした時間は三日。
ルークが住んでいたという屋敷も見せてもらい(過剰な程のもてなしも受けた)、
少しではあったが観光もさせてもらった。
知らないことだらけだった自分は目から鱗が落ちた気分で、あっという間に時間は過ぎた。
 
 
次に向かったのはダアト。
本来ならユリアシティも立ち寄る予定だったらしいが、
現在はユリアシティの市長だったテオドーロ氏がダアトにいる為、一つに絞ったらしい。
 
しかしテオドーロ氏は現在激務に追われており、教示を願うことは適わなかった。
その代わりにダアトとユリアシティについて教えてくれたのは、
ユリアの子孫でありテオドーロ氏の孫娘(初めて知った)ティアと、
現在ダアトの上層部に籍を置いているアニスと道師イオンのレプリカだというフローリアンだった。
 
国とは違う統率方法に学ぶことは多く、キムラスカ国とはまた違った様子でとても新鮮だった。
観光がてら迷宮としても有名な教団内部や街を見物し、そこで費やした時間は二日。
 
 
そうして最終的に向かったのが、現在自分のいるここ――マルクト帝国の首都であり水の都と名高いグランコクマ。
自分はここのレプリカ保護施設に一時世話になっていたこともあり、
言語や生活の仕方など、ここで学んだことは今の自分にとってなくてはならないものとなっている。
その所為か他国を訪問するよりもいくらか気分は楽で、まるで故郷に戻って来たかのようにも感じていた。
 
しかし、そんな風に思う自分の頭の隅に一抹の不安が過ぎる。
というのも、何しろここは現在自分を振り回している切れ者軍人ジェイドの本拠地であり、
そしてそんな彼の上司にあたる皇帝陛下が鎮座している国。
果たして今までのようにスムーズに事が運ぶのだろうか。
 
(……絶っっ対、ないな!)
 
そんな自分の予想は見事に的中し、一日目は研修中にもかかわらず、
グランコクマの現皇帝ピオニー・ウパラ・マルクト九世の善意(?)により、歓迎の宴に招待される羽目になった。
 
初めはそんなつもりでここに来たのではないと丁重に断っていたのだが、
「ここで一つ、親睦を深めようじゃないか」という言葉に絆されてしまい、
挙句の果てには「親睦の証だ」と言われて酒をしこたま飲まされた。
宴が終わり、用意された部屋で痛む頭と共にベッドに倒れ込みながら、
そういえば何一つ研修らしいことをしていないなと遠のく意識の中で思った。
 
そして今日こそはと気合を入れた二日目。
そう、本日は研修最終日。
これが終れば帰れるのだ。
自分としてはとっとと終らせてあの安らぐ自分の〝家〟に帰りたい。
 
 
――というのに。
 
 
先から皇帝陛下の口から出て来るのは、この国の政治経済、運営方法などには一切触れずに、
人とのコミュニケーションの取り方……いわゆるその……、女性との接し方などまったく関係のことばかりだった。
良い加減自分のこめかみの震えが限界点に達しようとしたので「真面目に教えて下さい」と頼んでみたら、
 
「そんなことはジェイドにでも聞いたら良いだろう」
 
とばっさりと切り捨てられた。
 
投げられた本人はと言えば「嫌ですねぇ陛下、面倒臭いだけじゃないんですか」と笑顔で突っ込み、
さらにそこから先ものらりくらりとかわし続ける二人のペースに呑まれてしまい、
ついにはメモを取る気力がなくなってしまったという訳だ。
 
「アンバー、あんまり気にしなくて良いぞ」
 
溜息をつきかけた自分に「あの二人はいつもああなんだ」と、ガイがこそりと小声で言って来た。
そういえばガイは普段この二人の下で働いているのだということを思い出し、何と気の毒なと同情する。
無言で哀れみの視線を送っていると、ガイは「もう慣れたもんさ」と諦めたような表情で笑った。
それは女性陣達も同じらしく、それぞれがやれやれと後ろで溜息をついている。
 
「何でこんな状態でこの国が維持出来ているのか、まったく分からん……」
 
留まることを知らない二人のペースに嫌気が差し、ついぽつりと漏らしてしまう。
それを聞いたガイは苦笑する。
 
「まぁ……今はそう思われても仕方がないけど、ピオニー陛下は本当に凄い方だよ。
普段はああやって陽気に振舞っているけど、いざと言う時の指導力は目を見張るものがあるし」
 
「……簡単には信じられそうにもないな」
 
「はは……まぁそう言うなよ。逆にああいうお方だから、民の信頼も厚いんじゃないのかな。
民にも親しまれた皇帝陛下……ってのは多分、この国だけだと思うぞ」
 
そう言った後に「何度も宮殿から脱走しては、色々な店で遊んでるしな……」とどこか遠い目で呟く姿から、
連れ戻す仕事もさせられているのだろうと再び同情する。
 
(〝親しまれた皇帝陛下〟……ねぇ)
 
半信半疑のまま視線を目の前の金髪の人物に移した。
ブウサギという生き物と戯れながら、かつてはネクロマンサーと言われ、
特定の人々に恐れられていた大物と戯れる褐色の皇帝は、
確かに人好きのする笑顔で誰にでも分け隔てなく接する人物だった。
 
――それはもちろん、レプリカである自分に対しても。
 
(上下がなく、裏表もない)
 
悔しいが客観的に見れば、自分達がこれから作ろうという国の体制に一番近いのはこの国だった。
保護されていた時に感じた、この国のほんのりとした温かさ。
それはこの皇帝陛下が成せる業かもしれない。(とてつもなく信じ難いが)
 
もちろん、今まで回って来たバチカルやダアトにも良い所はあった。
それぞれの国の良い所を抜き出して、レプリカの国が寄り良いものとなるのなら、
今回の研修は決して無駄ではなかったと思える。
 
その為にもどうにかしてまともに教わらないと、と考え始めたその時。
リドから預かっていた通信機の呼び出し音が胸元から鳴り響く。
それに気付いた仲間達が何事かと一斉にこちらを見た。
 
慌てて椅子から立ち上がり、周囲に謝罪して部屋の隅の方に移動する。
胸元から鳴り響く通信機を取り、少しばかり声を潜めて応答する。
 
連絡をして来たのはリドだった。
 
『アンバー! ごめん! そろそろ限界かも!』
 
「どうした?」
 
周りに気遣ってなるべく静かにと思っていたが、向こうは相当焦っているらしく、リドの声が段々大きくなって来た。
 
『皆が「アンバーはどこに行ったんだ」って不安がっちゃってさ。
ジェイド達と研修に出てるって言ったら、余計にそれを煽っちゃったみたいで……! 
今も会議室の前に結構な人数が来て、レピドが応対してるんだけど……』
 
その声の大きさに、急いで通信機の受診音量を下げてみたが、所詮気休めにしかならない。
こちらの意に反して、じわじわと仲間達の視線が自分に集中していくのが分かる。
 
 
――これ以上は、まずい。
 
 
折角隠していたのに、こんな所でばれてしまっては元も子もないではないか。
 
「とりあえず落ち着――」
 
ぼそぼそと聞こえるか聞こえないかぐらいの小声で、リドに落ち着けと伝えようとするものの。
 
『これが落ち着いていられると思う!? 今にも一触即発って感じだよ!? それにラピスが……』
 
 
「ラピスがどうした!?」
 
 
叫んだ瞬間「しまった」と思う。
しかし時すでに遅く、慌てて口をつぐんだ時には周囲の視線が突き刺さるようだった。
 
『……いや、特に何もされてないからとりあえず落ち着いてね、アンバー』
 
挙句の果てには、逆に落ち着けと言われる始末。
あぁもう自分って奴は……と自己嫌悪に陥るが、そんな場合ではないと気を取り直す。
 
『何もされてないけど、ついにきちゃったみたい』
 
「何が?」
 
『〝ラズリ〟禁断症状』
 
それを聞いた瞬間、がくりと肩を落とした。
 
仲間内で〝禁断症状〟と呼ばれる彼女のそれが分かったのはつい最近のこと。
 
彼女――ラピスは普段こそ落ち着いてはいるが、長くラズリと離れていると、情緒不安定になる時期がある。
急に泣き出したり、落ち込んだり、ラズリの名を呼んでは「寂しい」と嘆いたり。
それはまるで母を求める子供のようだった。
 
彼女が情緒不安定になる度に自分達が慰めたり、外に連れ出したりして気を紛らわせていた。
今回も、初めは何とかリド達で宥めることに成功したらしい。
そしてその後に、そんなことを考える暇がないぐらいの仕事を与えることで落ち着いたように見えたが、
それも効力を失って来たらしい。
 
「分かった、なるべく早く終らせて戻――」
 
何とか早くこの気まずい……というかひしひしと漂う嫌な空気を終らせたい。
その一心で無理やり会話を切ろうとするが、やはりそう上手くいくはずもなく。
 
 
「その前に。そちらで何が起こっているのか、教えて頂きたいのですが?」
 
「俺もぜひ知りたいな♪」
 
 
いつの間にか自分の背後に佇んでいた二つの声に聞き覚えがあったのか、
通信機の向こうでリドが小さく『げっ』と呟いたのが聞こえた。


 
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プロフィール

HN:
ちおり
性別:
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自己紹介:
赤毛2人に愛を注ぐ日々。