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第七章 Trigger 09
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第七章 Trigger 09




針が進み始める。

緩やかに、だけど確実に。




ルークの治療が始まってから一ヶ月と少し。
周囲の懸命な看護のお陰か、この短期間でルークの容態は随分回復したように見える。
最初は異性が近付くだけで震えていた身体も、
今ではアッシュや研究所内の男性が近寄っても体が震えなくなっているようだ。

(あれ以来……、ルークとアッシュが少しぎこちないのが気になるけど……)

先日、買出しから帰って来た時にうっかり見てしまった時のことを思い出した。
二人が抱き合っていることにも驚いたが、何よりアッシュのあの表情。

(……少しは進展したと思って良いのかしら?)

そんなことを考えながら、ルークの部屋に飾られている花に水をやるべく部屋へと向かう。
握っている容器の中の水がちゃぷりと音を立て、廊下には暖かい日差しが降り注いでいる。

今日も良い天気になりそうだと思ったその時、目の前に降り注いでいた日差しが一瞬陰った。

(……鳥?)

追うように見上げた視線の先に映ったのは、残念ながら鳥ではなかった。
――が、その代わりに空を鳥のように駆け巡ることが出来る見知った機体がそこにあった。

(あれは……アルビオール?)

「ラズリ」

一体どこへ……と視線で行く先を追っていると、後ろから声がかかる。
そちらを振り向けば、こちらに向かって駆けて来るアッシュの姿が見えた。

「どうしたの?」

駆けて来たアッシュの右手には通信機が握られていた。
それを見ただけで、向こうから何らかの連絡が来たのだということが分かる。
ということはアルビオールの行く先は、ここ(ベルケンド)である可能性が高い。

「あいつらがこれから来るらしい。何かあったのか聞こうと思ったら切りやがったし、何なんだ一体……」

「ここで言うつもりなんじゃないかしら? もう着いたみたいだし」

つい先程、空にアルビオールが見えたことを伝えると、アッシュの眉間に皺が増えた。
そしてそのまま無言で研究所の出口へと向かう。
あの状態から考えて、快く仲間達を出迎えるということはなさそうだ。

やれやれと肩をすくめながら、この間にと、自分は早々にルークの部屋へと向かうことにした。
むっとした表情の彼はどうせ街の入り口辺りで、
仲間達(対象者は一人だと思われるが)とひと悶着起こしてからここへ向かって来るのだ。
それを考えると花に水をやる時間ぐらいはあるし、
その後でルークを連れて研究所の入り口まで迎えに行けば時間的にもちょうど良い。

(だけど……本当に一体何の用事なのかしら?)


自分の予想は見事に的中していた。

現在自分とルークの目の前にはムスっとした顔のアッシュと、とびっきりの笑顔を放つジェイド。
そして後ろで苦笑している仲間達がいる。

その中の一人から事情を聞くと、あの後アッシュは眉間の皺を幾つも刻んだ状態で仲間達と合流し、
街の入り口前でジェイドとしばらく睨み合っていたらしい。
(片方は笑顔、片方は物凄い形相で見詰め合うその姿はさぞかし滑稽だったことだろう)
ガイが何とかその場を収め、ようやく研究所の入り口へと来た所で、
出迎えに来た自分とルークが合流したという訳だ。

「お元気そうで何よりです♪」

にこにこと笑いながら、ジェイドは簡単に挨拶をすませた。
その笑顔の後ろに何が隠されているのかは、まだ分からない。

「来てくれて嬉しいけど……どうしたんだ急に? 何かあったのか?」

未だ状況がよく分かっていないルークは、とりあえず何の用事でここへ来たのかと聞く。
それは自分も聞きたいことだった。恐らくアッシュも。

「何かあったとは、心外ですねえ。皆さんと一緒にあなたのお見舞いに来たというのに」

「久し振りだなルキア!」

ジェイドの声に続くようにガイが声をかけた。
そのままルークの傍へ駆け寄ろうとするが、それを引き止めるかのように後ろにいた女性陣から声が上がる。

「まぁルキア! その服とても似合っていましてよ!」

「ルキア……、可愛い……」

「頑張って見立てた甲斐があったってもんだよねー!」

と言いながら、三人はあっという間にルークを囲んだ。
いくら可愛いと言われても、その姿を確認することが出来ない所為か、
ルークは周りからかかる声に「え? え?」と戸惑った様子を見せている。

その様子を見ながら、心の中でこっそりとルークに対して謝罪をした。
この頃自分も、彼女が着る服を選ぶことが楽しくなって来ていたのだ。

「本日は、新たに見立てた服を持参して来たのです。この目で見たいのでぜひ着てみて下さいな!」

「大丈夫、着替えは手伝ってあげるからねー」

「え? ちょっ……ええ?! ア、アッシュー! ラズー!」

女性陣から〝着替え〟という言葉を聞いてさっと顔色を青くしたルークは慌てて助けを求めて来たが、
助けようとする前に有無を言わさぬ笑顔が自分達を牽制した。
威嚇するようなその笑顔に気圧されてしまい、
二の句を告げないでいる間にティアとナタリアがルークの両脇を掴んでそのまま部屋へと引き摺っていく。

その傍らで「よいしょ」と荷物を抱え直したアニスが、
「じゃあちょっとルキア借りるねー!」と言いながら三人の後を追いかけて行った。
抱えている荷物から判断するに、見立てた服とやらはアニスが持っているのだろう。

「おやおや、連れて行かれてしまいましたねぇ♪」

「久し振りに会うからって、張り切ってたもんな」

ルークが連れ去られるまでの一部始終を呆然と見送る自分とアッシュの前に、
嘘臭い笑顔のジェイドと苦笑交じりの顔をしたガイが立った。
その二人の表情から女性陣がルークを連れて行ったのは、彼女に聞かれたくない話があるのだと気付く。
隣を見るとアッシュもそれを察知したのか、表情を引き締めている様子だった。

そんな自分達に「改めて、お久し振りです」と、ジェイドが声をかけて来た。

「……報告によると、順調に回復しているようですね」

「えぇ。異性と接した時の身体の震えは、完全に無くなっているようです」

「……今は、俺や研究所内にいる男達が近寄っても平気らしい。多分お前らが近寄っても大丈夫だとは思うが」

「しかし記憶と視力はまだ戻っていない、と……」

それを聞くなり悔しそうに顰められるアッシュの眉間を見ながら、ジェイドが溜息をついた。
気の所為か、その表情から僅かな焦りの色が見える。

「ローレライとの回線の方はどうなっているんです?」

「俺の方はいつでも準備は出来ているんだが、向こうの負担を考えると、な……」

「無理やりにこじ開けるという訳にもいきませんしねぇ」

それを聞いて、記憶を失う前にルークから聞いた話を思い出す。
以前フォンスロットを通じてアッシュと会話をしていた時も、かなりの頭痛を伴っていたとか。

「まぁ、普通に接することが出来るようになっただけでも大したものだよ」

溜息をつきかけている二人の間で、取り繕うように「アッシュとラズリの看護のお陰だな」とガイが笑った。
それを聞いたアッシュの頬に少し赤みが差したのが見えた。どうやら照れているらしい。
自分もそれに答えるように、ルークの近況を伝えていく。

「最近は見えなくなったことにも大分慣れて来て、近頃は私のサポートなしでも外に出歩けるようになっているわ。
足音で誰が近付いて来てるのかも分かるみたいだし」

「へぇ、そりゃ――」

「それはとても都合が良いですねぇ」

「凄い」と言いかけたガイを、ジェイドが笑顔で遮る。


――やはり。


このどこまでも狡猾な軍人が、ルークの見舞いの為だけに訪れるはずがない。
自分の視線に気付いたジェイドの眼鏡が光った。
口元には、あの――笑み。

「……すでにお察しの通り、ここへ来たのは見舞いだけではありません」

「とある方から、これを預かって来ました」と、ジェイドは懐から一通の手紙を取り出して自分に渡す。
視線をそれに向けるとそこには、自分への宛名が書かれていた。
見覚えのあるその字体に気付き、急いで封を開けて中身を確認する。

「これは……」

「えぇ。ついに耐え切れなくなったようで……」

「発狂しかけてるんだよ」


「「〝ラピス〟が」」


持っている手紙には、たった一言大きな字で【会いたい!!】とだけ書かれていた。
久し振りに見る彼女のそれに、嬉しさと同時に苦笑が漏れる。

「……ということで、ルークの見舞いがてらに貴女を迎えに来たんです♪」

ジェイドはにこにこと笑みを湛えたまま、自分の返答を待っている。
だが、今までの経験から自分もアッシュも、その奥にまだ何かを隠していることを知っていた。

「……それだけじゃねえだろ」

「……さすがですねぇ。それについてはガイ、説明を」

「ここまで来てまた俺かよ! いや、何でもないです……」

がっくりと肩を落としたガイから、簡単に現時点での状況説明がされていく。

ジェイド達は一週間前からアンバーを率いて、彼に国の体制についての勉強(研修)をさせていたらしい。
その研修最終日をグランコクマで過ごしていると、
リドから『新たに入って来たレプリカ達の間で被験者に対する不信感が募り、
今にも爆発寸前だ』とアンバーに連絡が入ったという。

その勢いは彼らをまとめている者達だけでは抑えることが出来ず、
また、このままでは被験者であるラピスにも危険が及ぶ可能性が出て来た為、
アンバーらは不信感を抱いているレプリカ達に対して、
〝被験者とレプリカは共存できることを見せる〟必要があると判断した。

その時点でそれを実行することが出来るのは、ルークとアッシュ、そして自分とラピスの二組。
しかしルークの今の状態では、とてもじゃないがそれを務めることは出来ない。
よって、自分とラピスをその位置に据え置くことにしたのだという。

「とまぁ大体はこういう理由なんだけど……正直それよりもまいってるのは、
ラピスの〝ラズリ禁断症状〟の方なんだよ。
その被害を一身に受けてるアンバーから、『俺の心臓が持たないから何とかしてくれ!』って泣きつかれてな」

苦笑するガイに具体的な被害の状況を聞いてみると、
情緒不安定になった彼女は、一日中空を虚ろに見詰めていたり、かと思えば急に泣き出したり、
挙句の果てにはそのままアンバーに抱き付いて自分の名前を叫んだりしているらしい。
確かにそれは彼女に好意を持っている彼にとっては酷なことかもしれない。

しかし彼には気の毒な話だが、彼女が異性に対して泣きつくのは初めてではないだろうか、と思う。
「だとしたら自分は戻らない方が良いのではないか」と知らず知らずの内に呟いてしまったが、
「それはやめておけ」とガイが制した。

「ここへ来る前に偶然その現場に行き当たったんだが……悲惨なもんだったぜ? 
ラピスが『ラズリに会いたいいい!!』って叫びながらアンバーに抱き付いてさ。
アンバーは最初こそ真っ赤な顔してたけど、何て言うか……音が、な……」

「えぇ。素晴らしく骨がきしむ音がしていましたねぇ♪ その後、アンバーの赤い顔が青く染まっていきましたし。
私達が止めないと圧死する所だったんじゃないでしょうか」

アッシュが「あの一見ひ弱そうに見えるラピスが?」と意外そうな表情をしてこちらを見る。
自分はそれに対してゆっくりと頷いた。

残念ながらこれは本当のことだ。
彼女は見た目からは想像がつかないが、かなり力が強い。
その細い腕のどこからあんな力が出て来るのか、幾度も聞こうと思い、また、断念しているのだ。

(以前、各国協議から戻って来た時も……)

あの時も物凄い力で抱き締められた。
それこそ骨がきしむ程。

「しかし、あなたはルークの補助をして下さっている身ですから、
無理にお願いする訳にも……と悩んでいたのです。
けれど、お二方の話では、あなたのサポートなしでも充分やっていけそうですし。
それにあなたがいなくとも、もう一人〝心強い方〟がいらっしゃいますしね☆」

最後に意味深な言葉を付け加えて言った後、視線が自分からアッシュに移る。

「ここらで少々、ラズリをお借りしたいと思っているのですが、構いませんか?」

「……借りるも何も、そんな状態じゃ戻るしかないだろうが。
そのレプリカ達を治めないことには、街の建設が終らねぇだろうしな」

ジェイドの狐のように細められた瞳を見て、不機嫌さを堂々と顔に貼り付けたアッシュから了承の意が示された。

自分自身も戻った方が良いと思っている。
レプリカ達の統率が出来ていないと、街の建設もままならない。
それは分かっている、分かっているのだが。


――本当にそれだけだろうか?


(……もしかして……)

ジェイドはこれを機会に、アッシュとルークを二人きりにさせるつもりだろうか。
そうすることで何かのきっかけを呼び起こそうとしているのかもしれない。

そうだ。きっとそうに違いない。
彼程の技量なら、レプリカの統率操作などなんの雑作もないはずだ。
それが、自分とラピスの存在をレプリカ達の手本とするなど(これはこれで良いのだろうが)、
はっきり言えば遠回りな手法をとるなどと。

視線をジェイドに寄越すと、先程とは違った笑みでにっこりと微笑まれた。
どうやら自分の考えは当たっているらしい。

(そうね……。その方が手っ取り早いかもしれない……)

確かにあの二人はどこか鈍い。
傍から見ていてもヤキモキする程に。

恐らく自分がルークの傍にいる状態では、これ以上の進展は望めないと思って良い。
仮にあったとしても、進展するのはかなり遅くなることは間違いない。
実際、自分がいない時に二人の仲は進展していたではないか。(といってもほんの少しだが)
それに加えて、以前から思っていることがある。


――それは二人の存在意義。


仲間達から二人の隠された記憶を聞いた(問い詰めた)時、思わず顔を顰めてしまった程の悲しい記憶。

自分が生きることに必死で、でも幸せであった頃に、彼らは何と重い業を背負わされていたことか。
それを知らなかったとはいえ、安穏と過ごしていたあの頃の自分が悔やまれた。

同時に、二人が〝英雄〟と呼ばれるのを嫌う理由が分かる。
彼らは決して〝英雄〟などではない。

二人はこの世界の〝犠牲者〟だ。
もしくは生贄と言っても良い。


――二人の〝生きる意味〟を犠牲にして、この世界が在る。


それを理解した時、どうして仲間達(ローレライ含む)がこんなにも躍起になって二人に構うのかが分かった。

この二人は世界中の誰よりも、何よりも、〝幸せ〟にならなければならない。
また、そうなる権利がある。

そしてそれはどちらか一方――では駄目なのだ。

しかし、この二人の性格上、簡単にその言葉に甘えはしないだろう。
今までの経緯を考えると、それは当然のことかもしれないけれど。


――彼らは二人で一人。

――幸せになるなら、二人で一緒に。


全てが終わった今、二人は互いに歩み寄るべき時期に来ている。
反発し合い、衝突し合い、でも気付かぬ内に惹かれ合って。
(本人達に自覚がないものだから、仲間達が日々奮闘していたようだが)

そんな時に……、しかもサポート無しでも動けるようになっている今は、自分は居ない方が良い。
ならば自分が今、すべきことは。


ゆっくりと口を開ける。
二人の溝が埋まることを祈りながら。


「……分かりました。レムの塔へ戻ります」



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プロフィール

HN:
ちおり
性別:
女性
自己紹介:
赤毛2人に愛を注ぐ日々。