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第八章 Sephiroth 08
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第八章 Sephiroth 08




何を信じればよかったんだろう。

誰を信じればよかったんだろう。




――分からない。

どうしてこんなことになったんだ。


親善大使という大役を受け、仲間達と共にアクゼリュスへと向かった。
そこで自分はアクゼリュスを救って英雄となる、そう信じてひたすらに歩を進めていった。

旅の目的はアクゼリュスを救うことだから、
仲間の中での立場は親善大使という役目を担う自分が一番上のはず。
しかし、弱い身体に鞭を打ち、周囲に迷惑をかけてしまうと分かっていながらついて来た導師のお陰で、
自分の存在は途端に小さくなってしまっていた。

それに加えて、この導師様はよく敵に攫われる。
救出の為に行動したり、疲労を軽減するために度々休息を取るお陰で、
予定していた到着期日からは随分遅れを取っていた。

攫われるのはともかくとして、病弱な身体の原因は恐らく、導師の身に宿す特別な力。
(確か……ダアト式譜術、といったか)

それを考えれば、基本的な所は自分と同じかもしれない。
ただ違う所は、イオンは神のように扱われており、
逆に自分は、異端と見なされて恐れられた上に、軟禁されていたというだけ。

だからといって、自分は彼を嫌ってはいない。
彼の人格はとても好ましいものであるし、何故か傍にいてもとても心地が良い。
マルクト帝国とキムラスカ王国の和平が成り立ったのも、彼が間に入ったお陰だということも今では理解出来る。

だが、今回はあくまでもアクゼリュスを救うことが目的なのだ。
前回のように絶対的に導師イオンが必要……という訳ではない。
親善大使である自分が、アクゼリュスを救えばいいのだ。

(……だよな? 俺、間違ってねぇよな……?)

師匠から、自分がアクゼリュスを超振動で救うことは、直前まで誰にも言ってはいけないと言われている。
理由を話せば、仲間達との間にある深い溝も埋まるかもしれないが、残念ながら彼らは信用ならない。
そして彼らもまた、自分を信用してはいないだろう。

周囲に嫌われているのは分かっている。
ひしひしと伝わる場の空気が、この身にそう訴えているから。
こんな状況は慣れている。


――けれど。


(……早いとこ、師匠に会わなきゃ……)

アクゼリュスが危機的状況に瀕しているというのなら極力急いだ方がいい。
自分が行って障気を中和すれば、それで全ては解決するのだ。
しかし、そう考えて焦る自分とは裏腹に、仲間達との距離は開いていく。

強い孤独と不安に、心が折れてしまいそうだった。



――≪……ザッ……ザー……≫――



頭が、痛い。

といっても、以前のような原因不明の頭痛ではなく、アッシュによって開かれたフォンスロットの影響で、
彼がそれを通じて自分と連絡を取ろうとした時に生じるものらしい。
この痛みは、先程から彼の声が頭の中に反響しているせいだろう。


≪そこから先に行くのはよせっ!≫

≪奥に行くんじゃねぇ! 取り返しがつかねぇぞっ! 言うことを聞きやがれっ!≫


さらに付け加えるならば、彼が声を張り上げれば張り上げるほど、痛みも増すらしい。
どうせ自分にしか聞こえていないのだから、もう少し声のトーンを抑えてもらいたいものだ。

「……お前なんかに命令されてたまるか」

痛む頭を堪えて立ち上がる。


――ここで自分が超振動でアクゼリュスを救えば、皆が自分を認めてくれる。


その一心で、ようやくここまで来たのだ。
ここを救えば、ずっと付き纏っているこの不安と孤独からも解放されるはず。
自分はここにいていいのだと、自分の居場所を確立するためにも、ここを救わなければならない。

だけど、気になることが一つある。

自分のこの力――超振動は、どう考えても〝破壊の力〟であるということだ。
以前、船体に穴を開けてしまったことから、
同じ第七音素でも治療師(ヒーラー)のような癒しの効果があるとは到底思えない。
それなのに、師匠は一体どうやってこの力でここを救おうというのか。

イオンには「大丈夫だ」と、「自分は選ばれた英雄なのだ」と強がった発言をしてしまったが、
結局それが最後まで気になってしまい、師匠に促されるがままに胸の前に両手を構えるも、そのまま躊躇してしまう。

「……どうしたルーク? 以前と同じようにすればいいだけだ」

「……せ……せんせぇ……。これで本当に、アクゼリュスを救えるんだよな……?」

「あぁ、そうだ。お前の持つその力で障気を中和するのだ」

目の前に聳(そび)え立つのは光の柱。
根元はここから覗き込んでも見ることは叶わないが、かなり深い場所から伸びていることが分かる。
そして上を見上げると、空へ届けとばかりに伸びる枝。
淡い光を放つそれらは、何かを支えているようにも見える。

(支えて……? 何を……? この上にあるのは……アクゼリュス……)


――もしこれが、街……いや、〝地上〟そのものを支えているとしたら?


(超振動は破壊の力だ。この力でこれを消したら……)

支えているものを壊せばどうなるか……、ここから先は自分でも安易に予想がつく。

「さぁ……ルーク……」

悩む自分の両手を師匠が取り、そのままゆっくりと誘導する。

(本当に、これでいいのか……? アッシュが言うように、取り返しのつかないことになるんじゃないのか?)

でも、師匠のことは信じたい。
自分を必要だと言ってくれた、師匠のことだけは。

「よし、そのまま集中しろ」

「……(どうしよう、どうしたら)」

流されるままに両手を構えるが、先程から頭に鳴り響く警笛が止まない。


――これを、壊してはいけない。


(――っ!! やっぱり、駄目だ!)

「師匠、やっぱりやめ……っ!」

超振動を使ってはいけないと、心が叫ぶ。
その警告に抗えず、後ろにいる師匠の方を振り返った時にそれは起こった。


「さぁ……〝愚かなレプリカルーク〟、力を解放するのだ!」


刹那、身体の奥から沸き起こってくるのは――熱。

「な……何だ!? 俺の中から何かが……」

そして湧き上がったのは、それだけではなかった。

(っこれは……!?)

何かがぐるぐると螺旋を描きながら、熱と共に溢れ出す。
一気に流れ込んできたそれが〝記憶〟だと認識するまでに少々の時間を要した。

その中で、頭に響く言葉がある。
それは船上で初めて超振動の存在を知った時、師匠が自分に対してかけた言葉。


――『私が解放を指示したら、お前は全身のフォンスロットを解放し、超振動を放つ』――

――『そう、今使っているその力だ』――


続けて、シャランと音を立てて見せられたのは金細工を施した真紅のペンダント。
これは……どこかで見たことがある。


――『合言葉は……〝愚かなレプリカルーク〟』――


途端、弾かれたように噴出す力。


「ぁ……嫌……だ! ……うわあああああ!!」


――止まらない。


この力を放ってはならない。 そう強く念じても敵わない。抗えない。


――〝愚かなレプリカルーク〟


恐らくこの言葉が、自分の枷を外したのだろう。

(え……? じゃあ師匠が……俺に……暗示を……?)

そう考えている間にも両手からは光が溢れ出す。
全身の毛穴という毛穴が開かれ、根こそぎ持っていかれるような感覚。
辺りは白く輝き、周囲の様子はまったく見えなくなっていた。

(くそっ! 止まれ! 止まれったら!!)

光の中でたった独り、立ち尽くしてもがく自分。
願っても願っても、その勢いが収まることはなかった。


ようやくそれが収まった時には、身体を支える気力がないほど疲れ果てていた。
震える膝ががくりと地に落ち、床に座り込んでしまう。

「……ようやく役に立ってくれたな。〝レプリカ〟」

肩で息をする自分にかけられた声は、驚くほど冷たかった。
本当に師匠の声かと、疑ってしまうようなそれ。

「せんせ……い……?」

全ての力を使い果たしてしまったせいで、視線しか寄越せない。
視界が段々と掠れていく。

(レプリカ……って……)

その言葉を、どこかで聞いたことがある。
薄れ行く意識の中で、こぽりと湧き出してくる記憶の渦に自分はゆっくりと飲み込まれていった。
「間に合わなかった」と叫ぶ〝彼〟の声を、遠くに聞きながら。



意識が浮上し、目を開けると、そこはすでに別世界と化していた。
無事で良かったと喜ぶ聖獣をよそに、素早く辺りの様子を窺う。

どんよりと曇った空は障気にまみれて紫色に見え、
視線を下に降ろすとどろどろとした粘液がどこまでも広がっていた。
そしてそこに浮かび、自分達のいる小さな地の上に倒れ付しているのは、幾人もの人。

目に見える範囲で予測するに、その全てが息絶えているようだった。
だが幸い、ティアの譜歌によって彼女の周辺にいた自分を含む仲間達は、全員無事だったようだ。
その誰もが憔悴しきってはいたが、生きているというだけで少し安堵を覚える。

ぐったりと重い身体を何とか起こし、未だにぐらぐらと揺れる視界を無理矢理固定した。

(頭……が……)

まったくもって訳が分からない。
懸命に今の事態を判断しようと試みるも、乱雑に湧き出してくる記憶の整理がつかずに混乱する。

「っ……一体……何が起こったってんだよ……」


――アクゼリュスに、そして自分の身に。


確か自分は師匠に、パッセージリングと呼ばれる音機関まで降りて障気を中和しろと言われ、
目の前にあった柱のようなものに向かって両手をかざし、そして……――

(そうだ。結局……壊しちまったんだ……)

自分は、その力を使うことを拒否したのに。

止めようと思っても、止められなかったあの強い力。
何か別のものが働いているような、自分の意思ではない意思がそこにあった。

(師匠の……あの言葉で……、俺の力が解放された……)


――ということは、自分は師匠に操られていたから、あの力を?


(まさか! そんなはずはない……そんなはずは……)

昔から、自分が慕っていた人物だ。
唯一、自分を特別扱いしなかった人物だ。

その人が、自分を騙していた、なんて。
そんなことすぐに信じられるはずがない。

(でも……)

「誰かいるわ!」

段々と沈む思考を遮るように、ティアの叫び声が辺りに響き渡った。
我に返って彼女の視線の先を追うと、そこには泥の海に浮かぶ戸板にしがみつく子供の姿が見える。
数刻前までは元気に「エンゲーブに帰って母親に会いたい」と嘆いていた少年――ジョンだった。
その少年を守るかのように覆いかぶっている父親は、すでに事切れている。

「父ちゃ……ん……、痛いよぅ……父ちゃ……」

今にも消えてなくなりそうなその声に、仲間達はどうにかして助けてやれないかと画策するが、
ティア曰く「この泥の海は障気を含んだ底なしの海で、迂闊に入れば助からない」らしい。
ならばせめて治癒術を、と術に長けた二人が手を構えたその時だった。

「母……ちゃん……助け……て……。父ちゃん……たす……け……」

辺りが大きく揺れ、かろうじて浮いていた戸板がジョンと共に泥の海に沈んでいく。
小さな手が救いを求めるように伸ばされ……そのままとぷり、と飲み込まれていった。


その手が、自分に向けられているように思えた。

その目が、自分を責めているように思えた。



――殺したくない。



自分はずっと、そう願っていたはずだったのに。
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プロフィール

HN:
ちおり
性別:
女性
自己紹介:
赤毛2人に愛を注ぐ日々。