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第二章 Chase 03
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第二章 Chase 03




誰にも邪魔されず。

誰にも奪われない場所。




 旅先で仕入れた情報を元に、ルークとラズリの二人はレムの塔を目指して旅を続けていた。
 まずはレムの塔についての情報収集のため、ケセドニアに立ち寄る。ついでに染料も購入しようと思い立ち、二人は市場に顔を出した。
 いつも立ち寄る店の主人達と二人はすでに顔なじみで、互いに名前で呼び合うまでになっていた。
「あら、ルキアちゃんいらっしゃい」と染料店の主人――アイダに声を掛けられ、「良い色が入ってるよ」と勧められる。その中でいくつかの種類の染料を買い溜めしたあと、今度は愛剣を購入した武器店に顔を出す。
 ルークは毎回そこで店の主人――カームと、武器について語るのが常となっている。最近ではラズリも話に混ざるようになり、武器の手入れの仕方や振り方、どうすれば効率よく扱えるか――といった、たわいもない会話を楽しんだ。
 そのあとで路地裏に行けば大抵レプリカが暴行を受けていたので、二人はケセドニアに来る度にそこをパトロールがてら見回ることを決めていた。
 今回もそれは例外ではなかった。
 しかし、いつものように路地裏で暴行されていたレプリカを二人で助けると、その口から聞き慣れない言葉が出た。
「あんた達はひょっとして……〝蒼焔の守り神〟?」
 それを聞いたラズリとルークは顔を見合わせる。しかしその単語に聞き覚えはなく、互いに首を傾げる羽目になった。
 ルークが「それは俺達のことなのか?」とレプリカに問うと、そのレプリカは困惑した表情で頷いた。とりあえず、どういうことなのか詳しく事情を聞いてみることにする。
「同胞達の間で噂されている。その二人に会えたときは必ず助かると。レプリカを、同胞達を守ってくれる神のような存在だ、と聞いている」
 それを聞いたルークは、さぁっとその身体中から血の気が引いた。人に見付からないように気付かれないようにと行動していたが、まさに灯台下暗しというやつで、レプリカの間でこんなに噂になっているとは彼女自身思っていなかったのだ。しかもご丁寧に〝蒼焔の守り神〟だなどと、ご大層な異名まで付いて!
 そしてこの異名は、特定の人物を示すことになる。恐らく蒼焔というのは、ラズリの髪とルークの瞳の色からとったものだろう――となれば、そこから二人の存在が明らかになる可能性がある。いや、もうすでになっているかもしれない。
「あー」だの、「うー」だの座り込んで唸り始めたルークを放置し、隣にいたラズリがレプリカに話しかける。
「……その呼び名は、世界中のレプリカ達に広まっているの?」
「それは分からないが……、ここにいる私が耳にしたぐらいだから、相当な範囲ではないのか?」
――ジーザス。(あぁ神よ)
 それを聞いたラズリが、祈るように片手を額に当てている。常に冷静な彼女がそうするのは珍しい。
 だがそうなるのも無理はないだろう。この異名が世界中に広まっているとすれば、彼女の被験者であるというラピスにも伝わっているかもしれないのだ。
「そうなればあの人は草の根分けてでも私を探して追って来るわ」と言いながら、ラズリが項垂れていた。
 そうして揃って唸り始めた二人を、レプリカはどうすることも出来ずに傍観していた。
 しかし異名が付いた上に噂が広まっているとはいえ、探し当てられるまでにはまだ時間があるはずだと思い直して二人は立ち直った。
 未だ呆然とこちらを見ているレプリカに、ルークは「レムの塔のことは知らないか?」と聞いてみる。
「……知っている。各地から私のように自我が目覚めた者達が集まり、レプリカの街を作ろうとしているとか」
 そこへ行こうとカイツールを目指していたのだが、ここで足止めをくらってしまったと言う。
「レプリカの……街……」
 その言葉に表情が真剣さを増す。ルークとラズリは目を合わせると、互いに黙って頷いた。
 
 その後、傷付いたレプリカにすでに恒例となっている名付け――ちなみに黒い髪をしていたので〝モリオン〟と名付けた――を行ったあと、一時保護所へと預けて二人は再び市場へと足を運んだ。
 長旅に備えて食料や消耗品を調達し、その日はケセドニアで一泊することにする。全ての準備が終わってあとは寝るだけとなったとき、今日助けたレプリカ――モリオンが言っていたことを思い出す。
「レプリカの街かぁ……」
「もしそれが出来たら、素敵なことね」
 二つあるベッドに寝転びながら話す。
「そうだよな。誰にも邪魔されない、自分達の国、か……」
「本来なら、被験者達と共存していくことが一番の理想なのだろうけど。現時点じゃそれは無理そうだし……」
「うん……。なぁ、そこに行って俺達が手伝えること、あるかな?」
「あるわよ、きっと」
 不安に思っていたことを肯定され、ルークは安心して笑う。つられてラズリも微笑んでいたが、急に真面目な顔になり「それよりも」と続けた。
「どうやって、レムの塔に行くかが問題ね」
「……忘れてた」
 以前、ルークがレムの塔へ行った手段といえば、飛空音機関〝アルビオール〟だった。恐らくシェリダンへ行けば何とか借りられないことはないだろうが、そこへ行くのは自殺行為に他ならない。
 周囲を海に囲まれた島へ空路の他に手段があるとすれば、海路しかない。
「そういえば彼、『カイツールへ向かっている途中だ』と言っていたわね」
「カイツールに行けば何かあるのかしら」とラズリは首を捻る。
 カイツールはケセドニアから東に位置し、国境の砦として有名な場所である。そしてそこは以前、ルークがアッシュに斬りかかられた場所でもあった。ルークはあのときのことを思い出して苦笑する。
 ケセドニアからカイツールへと向かう海路は確かにある。しかしそれを利用するのかといえば答えは――否。
 ただでさえレプリカ達の間で噂になっているのだ。そしてその噂はもちろん、あの赤目の軍人の耳にも届いていることだろう。そう考えれば、これ以上人の目に晒されるのは少ない方が良い。そう考えると、ケセドニアから海路でカイツールへ向かうのは得策ではないことは明らかだった。
(それに、何か引っかかるんだよな)
 カイツールに行ったところでそこからレムの塔へと向かう手段があるとは到底思えない。ならばその近辺でレムの塔へと進路を向けられる手段があり、かつ、比較的それを隠せるような場所があるような場所といえば――
「――カイツール軍港」
 傍でラズリがぽつりと呟いた。どうやらルークと同じことを考えていたらしい。
 二人はその可能性に賭けることを決める。どうせここで立ち止まっていても仕方がないのだ。かなりの遠回りになってしまうが、陸路でカイツール軍港へと向かうことにした。
(明日から気を引き締めていかないとな! いつ見付かるか分かんねぇし!)
 ルークは薄い毛布の中で拳を作り気合を入れる。そしてそのまま瞼を閉じて眠りについた。
 
 翌日、快晴。絶好の旅日和。
 街を出る前に、二人は馴染みの武器店に顔を出すことにした。剣の手入れ用の道具を切らしているのを思い出したのだ。
 二人は目的の物を探しながら、今回は長旅になることを主人であるカームに告げる。
 すると「行き先はどこなんだい?」と聞かれ、陸路でカイツールへと向かうつもりだと答えると「そりゃあちょうど良い!」とカームが手を打った。
「実は、知人にカイツールまで運んでもらいたい武器があると急に頼まれてね。本来なら船で運んだ方が早いんだろうが、どうやら訳ありらしくてねぇ。そんなわけで馬車で運ぶ予定をしてるんだが、そこへ行くまでの用心棒を探していたんだよ。話を聞くにお嬢さん方はなかなか腕が立つようだし、もし良ければ頼まれてくれないか?」
「無理にとは言わないけどよ」と主人が笑う。
 そんなことは考えるまでもない。
 姿を隠せて、用心棒ということで素性も隠せて、カイツールに入る正当な理由もあって、あまつさえ方向が同じ。誰がこんな旨い話しを断ろうものか。
 二人は声を揃えて、「「その話、喜んでお受けします!」」と食い付いた。



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赤毛2人に愛を注ぐ日々。