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第一章 Hide 03
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第一章 Hide 03




引き寄せ合うように

呼ばれていた。




 ケセドニアにある宿屋の一室には、不思議な空気が漂っていた。
 黙した二人が、互いの顔を見詰め合ったまま佇んでいる。
 語らずとも、分かる。自分達は同じ存在で、同じように創られたレプリカであることが。
「うん。俺もレプリカだ」
 自然とルークの頬が緩む。こうやって対話が出来るレプリカに、初めて遭遇したせいかもしれない。
――そうだ。話せるのだ。
 ルークが先程感じていた違和感はこれだった。
 以前、レムの塔で障気を中和するときに集まっていたレプリカ達は、多少の会話は出来てもこんなに表情は豊かではなく、どこか無機質であったように思える。それは作り出されたばかりで、感情表現というものを知らなかったせいもあるかもしれない。
 しかし、目の前にいる存在《レプリカ》は、普通に話し、笑いもするのだ。ここにいるルークと同じように。
「ひょっとしなくても、すぐ顔に出る方ね?」
「な、何が?」
 ルークは動揺したことを知られないように誤魔化してみるが、それは無駄に終わったようだ。
「私のことが凄く気になると、顔に書いてあるもの」
「やっぱり、分かる?」
「えぇ」と彼女に溜息まじりに言われてしまえば、二の句が告げない。こうなったら開き直って聞いてしまえと、ルークは思っていたことを言葉に出した。
「なぁ、ラズは、どうしてそんなに――」
――そんなに。
 しかし、ルークはどうしてもそこから先が言えない。的確な言葉が見付からないのだ。
 具体的過ぎると相手を傷付けかねないし、かといってこのまま聞かずに終わるのも歯がゆい。
 どうしたものかとうんうん唸り始めた彼女に、それを見かねたラズリが助け舟を出して来た。
「そんなに〝感情が表に出ているのか〟ということ?」
「うん、そう!」
 助かったとルークは胸を撫で下ろす。下手に質問をして傷付けてしまうのはやはり怖い。現にそれを聞いたあとでも、「本当に聞いてもよかったんだろうか」と不安になっているのだ。
「私は運が良かったのね。私を――匿ってくれた人に教わったの。この世界のことや、言葉や、色々なことを。だからこうして自我が目覚めて、普通の人間のように話せるようになったのかも知れない」
「昔のことはあまり覚えていないんだけど」と苦笑いに近い微妙な笑顔でラズリは話す。
 その表情も気になったが、それよりも〝レプリカを匿う〟という言葉にルークは驚いた。
 ひょっとしたらその人はラズリがレプリカだということに気付かなかっただけかもしれないが、それでも対等に扱ってくれる人が一人でもいるのだと思えば、嬉しいことに変わりは無い。
 ラズリを匿ってくれたという人物は、どんな人だろうか?どんな思いで、彼女と過ごしたのだろうか?
 純粋な興味は尽きないが、どうしてもそこから先はラズリの表情が気になって踏み込めない。
 再びルークが聞こうか聞くまいかと悩み始めたとき、今度は彼女がルークに問うた。
「さぁ、次は私の番。あなたは何故そんな格好でケセドニアに居るの?」
――何故でしょう。
 ここでルークはようやく重大なことに気付いた。
(そういえば俺、ここにいる理由何も考えてねえ!!)
 ルーク自身、まさかこんなことになるとは思っていなかったのだ。
 予定では貯まったガルドで服と装備を買い、周辺で魔物退治をしながらどこへ行くともなく放浪の旅へ出るはずだった。そして彼らと交わした約束を守るために行動し、仲間達から身を隠した状態でひっそりと生きていくつもりだった。
 それが、この様だ。
 この格好にも一応理由はあるのだが、かといって本当のことを言うわけにもいかず、ルークは気ばかりが焦る。だが、『この格好はかの有名な第七音素集合体様が用意したものです』なんて言ったところで、ラズリに信じてもらえるわけがない。
(どうしようか、どっかの家から逃げて来たことにしようか)
「見たところ、何も知らないお嬢様――ってわけじゃなさそうね?」
(う、)
 言うより先に、先手を打たれてしまった。
 ルークが焦って他の理由を考えている間にも、矢継ぎ早に質問を浴びせられる。
「それに、服装からは到底想像がつかないその言葉使いと身のこなし」
(うう、)
「明らかに慣れていない服とその靴。靴ずれが出来てるわよ」
(ううう)
 口をぱくぱくさせながら必死で理由を考えるも、先々で否定される。この察しの良さは誰かに似ていると、ルークはうっすらとある人物を思い浮かべた。
(考えろ! 考えるんだ俺!!)
――どこから来れば怪しまれないのか、この身体になってしまった尤もな理由は!
 そこでふと、彼女はレプリカの生まれ故郷であるベルケンドのことを思い出した。
 あそこにはレプリカ研究施設がある。さすがにあの中でどういった研究がされているかまでは、ラズリには分からないだろう。
 ルークは研究所内にいる人達に心の中で謝りながら、都合の良いように言い訳を考える。
「ラズはベルケンドにあるレプリカ研究所は知ってるか?」
「ええ――中でどんな研究をしているのかは知らないけどね」
 それを聞いて、「よし!」とルークは心の中でガッツポーズを決める。
「実は俺さ、あそこの、実験体だったんだ。んで、何かの実験――で、元は男だったのに、気付いたら女になってて。この服だって、いつの間にか着せられてて俺、怖く、なって、そっから必死んなって、何とか逃げて来たんだ」
――しどろもどろになってしまった。
  ルークは「これじゃあ確実に怪しいと思われてるよなぁ」と思いながら、ちらりと視線を上げて彼女の様子を窺う。
 しかしそこにいたのは、彼女の予想とは裏腹に悲しそうな表情をしたラズリがいた。
「こんな理由で大丈夫だろうか」と恐る恐る話したのが幸いだったらしい。どう言うのが得策なのか探りながら言っていた表情も、深い悩みを抱えるそれ、とこちらとしては都合の良い形でとってくれたようだ。
「そうだったの……。辛い話をさせてしまったわね」
「ごめんなさい」とその手が優しくルークの頭に触れた。
(いや、こっちの方がごめんなさい、なんだけど――ってまぁ良いか)
 少し罪悪感を覚えたが仕方がない。今、自分が〝ルーク〟だと知られるわけにはいかないのだとルークは思い直す。
 それに、撫でてくれる彼女の手は気持ちが良かった。
 その手は、あの金髪の青年を思い出させたから。その口調は、亜麻色の髪の少女を思い出させたから。
「それであなたは、これからどうするつもりなの?」
「俺は、……各地で苦しんでるレプリカ達を助けたい。そう思って、ここに来たんだ。ケセドニアは中立の街だって聞くし、装備とか整えるのに都合が良いだろ?」
――そう。そのために、ここにいるのだ。
 ここへ来るまでに色々あり過ぎてすっかりどこかへ忘れ去られていたが、女になってまでここへ戻って来た理由をルークは思い出す。
 音譜帯にいたときに見た酷い仕打ちに合っているレプリカ達を。有無を言わさず奴隷のように扱われているレプリカ達を。わけもなく暴力を振るわれているレプリカ達を。
 助けるために、ここへ戻って来たのだ。
 真剣な表情で考え込むルークをラズリは黙って見ていたが、決心したように彼女に告げる。
「そういうことなら、私も同行して良いかしら?」
 聞けばラズリもレプリカを助けながら各地を放浪していたらしい。
 各地でのレプリカ達の扱いは相当なものらしく、つい止めに入り巻き添えを食ったこともあるそうだ。彼女が助けられそうなときは助けていたが、それにも限界がある。レプリカが酷い仕打ちを受けているのを、身を引き千切られるような思いで見ていることしか出来なかった自分が悔しいと、苦々しい表情で話してくれた。
「一人では、そういった扱いを受けているレプリカ達を救える可能性が低くても、二人居れば何とかなるかもしれない。それでも限界はあるだろうけど、一人で行動してあんな思いをするのはもう沢山だわ。
 私は自分に出来る最善のことを尽くしたいの」
――自分に出来る最善を尽くす。
 確かに、とルークは思う。
 レプリカを助けるにしても、一人よりは二人いた方が良いだろう。二人居ればどう動くか決められるし、サポートが居れば助けられる確率も数段上がる。
 それに自分一人で行動するよりは、二人で行動した方が見付けにくくなるだろう。――誰に、とは言わないが。
「分かった。一緒に行こう」
 迷う理由はない。彼女を利用してしまうことに、ルークは少しだけ罪悪感を抱いた。
「これからよろしくな! ラズ!」
「こちらこそ、よろしくルキア」
 あとはそれに向けて行動するのみ。



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自己紹介:
赤毛2人に愛を注ぐ日々。