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第四章 Save 06
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第四章 Save 06




胸の奥から叫ぶような音。

何を言っているのかはまだ聞こえず。




 解散と告げられ、情報が集まり次第収集をかけると言った軍人の言葉通り、一週間程が経ったあとでアッシュの元に再び連絡があった。
 届いた封書の中に入っていた書類によると【早急にルークを救出するための作戦を実行する】と書いてあった。
 アッシュはその一文に目を通すと、すぐさまその書類を持った状態でバチカルから離れる準備を始める。ナタリアは視察先からそのまま向かうらしい。
(書類など、移動の間に見れば良い)
 彼は早々に簡単な荷造りをし、いつでも出られるようにと待機させていた船に出航する旨を伝える。その間に両親へ少しばかり留守にすることを伝えに行った。
 両親は快く――とまではいかなかったが、それでもアッシュを送り出してくれた。去り際に「気を付けて」と二人から言われ、彼はそれを少しこそばゆく思う――もう成人しているというのに――。しかし嬉しく思ったのも確かであったので、彼は照れながらも素直に受け取った。
 移動する船内で、アッシュはジェイドから送られて来た書類に目を通す。
〝リア〟のアジトの位置、潜伏しているであろう人数、武器の所有量などを頭に叩き込んで行く。アジトの中がどんな風になっているのか分かっていない今は、少しの情報でも覚えておきたい。
 それにこうでもしなければ、この頃ずっと続いている胸騒ぎは治まってくれそうにないとアッシュは苦笑する。頭の中では冷静を保つようにと心掛けているのだが、この締め付けられるような想いは抑えられない。
――とにかく無事であればそれで良い。
――もう二度と、あれを失うわけにはいかない。
 祈りにも似た気持ちの中、船はカイツール軍港へと向かう。レムの塔への物資運搬を担当しているリドが使用しているルートを、現在も利用させてもらっているのだ。
 軍港へ到着すると、予め連絡がいっていたのか、リドが船の横で待っていた。
「あんたで最後だよ」と言いながら、彼は船を操縦するべく乗り込んで行く。ここに自国の白光騎士団でも居ようものなら、その口の利き方に激怒し抜刀しかねないなと考えて、アッシュは口元に少し笑みを浮かべる。
 態度を改めさせようと思えばある程度は従ってくれるのだろうが、彼はいつでも陽気であるリドは嫌いではなかったので好きにさせている。それにその口調はどことなく、アッシュが過去に六神将であった頃の緑髪の同僚を思い出させた。
 
――船が走る。
 進むのではなく、走るのだ。スピードがぐんぐん上がり、次々と船の側面から白波が立っていく。
 アッシュはそれを見ながら改めて少年の凄さを思い知る。彼の持つ譜業技術には誰もが一目置いているのだ。
 以前、「軍港からレムの塔へと移動するルートを使わせて欲しい」と頼んだ際に、そろそろ老朽化が激しい――元々あまり良い船ではなかった――それをアッシュが新しい物に替えてやったら、彼は喜び勇んであっという間に船を改造してしまった。
 スピードを上げるために余計なものは取り払われ、デザインも一掃――外見のデザインは苦手らしいので、いつもレピドに頼んでいるらしい――され、速度は以前より三分の一程度の時間短縮が可能となった上に、さらには乗り心地も良くなっている。少年曰く「乗って楽しけりゃ良いってもんじゃない」ということらしい。
 そしてこの船は、今では自他共に認める世界で最速を誇る船――面白いもの好きなグランコクマの皇帝陛下が、乗りたがっているという噂にもなっている――となっている。レプリカの街が完成した暁には、シェリダンへの小旅行を検討しておこうとアッシュは思う。彼の場合、小旅行では収まらないような気もするが。
 そうしている内に船は無事に船着き場へと到着し、そこから徒歩でリドと共にアッシュはレムの塔の入り口へと向かう。その途中でレプリカ達も最近は慣れて来たのか、彼に声を掛ける者がちらほらと見受けられた。アッシュはその声に快く返事を返しながら、以前の自分からすれば信じられないような光景だなと思い苦笑する。
 二人が塔内に入って会議室へと足を向けていると、ジェイド以外のメンバーが揃っていた。彼らもこれから向かおうとしていたらしい。
 一緒になって会議室の扉を開けると、そこでは慌しく兵士が入り浸っていた。
 以前と比べて机の位置がばらばらになり、何に使うかは分からないが、それぞれに何かしらの譜業機関が乗せられている。音機関から絶えず光が点滅しているのを見ると、何らかのレーダーかもしれない。その音機関の前では兵士が座って操作をしている。恐らくジェイドの配下達だろう。
 そのあまりの仰々しさを目の当たりにした仲間達は再び思い知らされた。
――これはただ事ではない。今や世界中を巻き込んでの一大事となっているのだ――と。
 もちろん通常であれば、こんなに大げさにはなることはない。ここまで仰々しいことになっているのは、何より捕らわれたのがルークであるということが一番の要因だろう。それは同時に、ルークが各国の長達にどれだけ想われているかということも推し量ることが出来る。
 この部屋を統括しているであろう赤目の軍人はというと、すでにアンバーと何事かを話し合っていた。彼らの前の机には地図らしきものが広げられている。二人に近付こうとすると、いつの間にか集団から離脱していたリドがガイを呼んだ。
「ガイ! ね、この譜業なんだけどさぁ……」
 そう言ってこちらに近寄って来るリドの手には、通信機と思われる物が乗せられていた。今回の作戦に使用するつもりなのだろう。それは大幅に改良されたのか、アンバー達の部屋に設置されている通信機よりもっと小さなものになっていた。
 ガイはリドに呼ばれるがままにそちらへと移動する。間をおかずに、二人の口から譜業の専門用語が飛び交い始めた。
 すでにルークを救うための作戦は始まっているのだ。その雰囲気が辺りからひしひしと伝わる。
――気を引き締めなければ。
 知らずアッシュの拳に力が入る。
「おや、皆さんお揃いで♪ お待ちしていましたよ」
 いつもの笑みを浮かべたジェイドに手で誘導される。彼の隣に立っていたアンバーと軽く挨拶をし、それぞれが誘導された場所、机の周辺へと移動した――が、それと入れ違うようにアンバーが部屋を退室しようとしていた。引き止めようとする周囲の視線に気付いたのか、彼は苦笑しながら言う。
「ここにいても俺は何も出来ないし、今はあんた達を信用するしかない。でも、必ずルキアを――ルークを助けてやってくれ。あの人は俺達の、ここにいるレプリカ達の恩人だからな。俺はラピスとラズリの護衛をしながら、レプリカの街の建設現場の様子を見ている。奴らがいつここへ来るとも限らないしな」
 アンバーは続けて「頑張ってくれよ」と皆に声をかけ、部屋から出て行った。アッシュはそれを視線で見送り、気を取り直して机を見る。
 卓上には先程の地図があった。遠目では良く見えなかったが、近くで見ると――いや、地図というよりこれは。
「大佐、これはもしかしなくても〝リア〟の内部図ですか?」
「察しが良いですねーティア。まったくもってその通りですよ♪」
――いつの間に。
 ジェイドの言葉に呆気にとられる。そうなったのはアッシュだけではなかった。続けてティアが「これを一体どこから手に入れたのか」と聞いた。
 何と彼は〝リア〟の存在を調査したときから、配下を密偵として放っていたという。
――この軍人には適わない。
 項垂れそうになる頭を支えるように、アッシュは溜息をつきながら額に手を置いた。気を引き締めたばかりだというのに、溜息と共にそれも抜けてしまう。後ろにいた仲間達もそう思ったらしい。
 そうしてほどよく緊張がほぐれたところで、ジェイドが未だ譜業について盛り上がっている二人に声をかけた。
「そこの輝かんばかりの笑顔で話し込んでいるお二人。盛り上がってるところに水を差すのは非情に心苦しいものがありますが、譜業談義はあとにして下さい。これからのことを説明しますので」
 あのまま二人で置いていたのでは、いつまでたってもこちらには来ないだろうとの判断だった。
 ジェイドの判断は正しかった。話し込んでいた二人ははっと我に返ったように、こちらへと移動して来る。
「……ラズリとラピスはどうした」
「そういえば、レピドとシリカもいませんわね」
 アッシュとナタリアは姿が見えない四人を目で探す。それに合わせて、「そういえば先から見かけないな」と、ガイとアニスも室内を見渡していた。
「ラズリは事情が事情ですからね。別室にて護衛付で待機してもらっています。もちろんラピスも同等に。芸術家のレピドの方はというと、こういったことにあまり首を突っ込みたくないようでして。まぁ今のところ彼に出来ることもありませんしね。シリカもここには居させない方が良いと思いまして、彼と一緒にいるように言ってありますよ」
 ジェイドの言葉にティアの眉尻が下がった。シリカが居ないと聞いて残念そうにしている彼女に、「あとで会いにいけば良いじゃん」と笑いながらアニスが声を掛けている。ティアは相当シリカがお気に入りらしい。
「さて、陛下が勝手に名付けた〝ルーク救出作戦〟の手順ですが」
 名付けたも何も、と周囲が呆れた笑いを零す。あの陽気な皇帝陛下様は、どうあってもこの騒動に首を突っ込みたいらしい。
「〝リア〟についての情報は皆さんの頭の中に入っていると思います。時間がもったいないので、さくっと説明していきますよ? まず、こちらの内部図ですが――」
 ジェイドの指先が、机の上に置かれている内部図に伸ばされる。
〝リア〟のアジトはケテルブルクから北東へ進んでいったところに位置し、そこにある森に囲まれた岩陰の洞窟にあるようだ。
 カモフラージュされた入り口付近に見張りが二人。中に入ってしばらく行くと、〝一般分岐点〟と呼ばれる場所に到着する。その内の何本かはフェイクであるらしい。
 視線を落として内部図を確認すると、分岐点の中で×印がされている箇所がある。これがフェイクなのだろう。
 そこに置かれたジェイドの指が、彼の説明と共に緩やかに動いて行く。
「×印がないところを進むと、武器庫、食料庫、そして〝特別分岐点〟へ行くための通路があります。そこにも見張りが数人。しかしここから先へは許可がないと入れないようです」
 彼の手が、眼鏡のブリッジを押し上げた。
「この先には首領の部屋や、何らかの――まぁ、小規模なレプリカ研究施設といったところでしょうか。それらともう一つ、〝拷問室〟と呼ばれる部屋があるそうです。ルークはそこに捕らえられているようですね」
――拷問室。
 それを聞くなりアッシュの眉間に皺が増える。同時に湧き上がる怒り。そこでルークが何をされているのかを思うと、相手に殺意が湧いて来る。
「ただ、首領の部屋への通路だけは分かっていますが、他の通路がどこへ通じるかまでは分かりません。フェイクが混ざっている可能性も充分あります。通路は全部で四本。それぞれに私、ガイ、アニス、ナタリア、アッシュが、手分けして入ることになります」
「あれ? ティアはどうするんですかー?」
「ひのふの……」と口に出して指折り数えていたアニスが、一人足らないことに気付いてジェイドに問う。数に入れられていない当人も、不安そうにジェイドを見詰めていた。
「あぁ、ティアには別の役目がありますので」
 ジェイドはそう言いながら一つの譜業音機関を机の上に置いた。その形から察するに、拡声器のようなものだろうか。
 不思議に思ったナタリアが、「これは?」と呟く。
「この作戦を実行するにおいて、もう一つ重要なことがあるんです」
〝重要〟という言葉に反応して、周囲が一斉にジェイドの方――リドの視線は机の上の譜業機関に釘付けだったが――を向く。
「こちらとしては〝リア〟の組織員達を、全員〝生きた状態〟で確保したいのですよ」
「……何故だ」
――ルークを拉致したというだけで腸《はらわた》が煮えくり返りそうなのに、その上生きて捕らえろなどと。
「アッシュ。自分が実行するよりも先に大事な彼女を拉致《と》られて、悔しいと思う気持ちは分からないでもないですが」
 アッシュの中で沸々と湧き出していた感情がジェイドの言葉によって拡散された。彼は危うく噴き出しそうになるのを何とか堪え、怒りの矛先を目の前の軍人へと摩り替えた。
「お前を先にぶっ飛ばす――!」
 今まで堪えていた分、この拳の威力は絶大だろう。
 だがしかし、アッシュの拳が届く前に後ろからガイがそれを止めた。
「何か俺、最近こんなんばっかだな」と苦笑するガイの前で、アッシュはジェイドに対する怒りが少し収まった。
「まぁまぁ落ち着けってアッシュ。旦那、何か理由があるんだろう?」
「えぇ。実は生け捕りにしてこいというのは、陛下から直々に頼まれたことなんですよ」
 肩をすくめてやれやれ、というようにジェイドが言う。それに対して女性三人がそれぞれの思いを口にした。
 ティアが「ピオニー陛下が?」と前髪で隠されていない方の目を僅かに見開きながら言い、ナタリアが「珍しいですわね」と右手を頬に置きながら言う。そしてアニスが「やっぱり、被験者とレプリカの問題だからかなぁ」と少し首を傾げた。アッシュとガイの二人も、三人と同じような感想を持った。
 本当に珍しいこともあるものだ。あのどこかルーク贔屓な陛下が、何の制裁も加えず奴らを生け捕りにして来い、などと――。
 アッシュがそう考えていると、ジェイドがそれを笑顔で覆した。
「いいえ。それはもう素晴らしい笑顔で、『俺がこの手で断罪してやるから、必ず生け捕りにしてこい』と。
まぁ、それについては私も同意見でしたので、文句はありませんでしたが」
 それを聞いた周囲は固まり、「やはり」という表情が浮かんだのは、言うまでもない。
「あともう一つ、そうしようというのには理由があるんです。先程、アンバーとも話していたのですが……。〝リア〟の影響かどうかは分かりませんが、この頃各地で〝リア〟以外の反レプリカ派が増えているようです。このままでは〝リア〟を壊滅したところで、いずれまた別の組織がレプリカ達を脅かしかねません。
それを防ぐためには――」
「――スケープゴートか」
 これまでの経緯で何とか怒りが収まったアッシュは、その先に考えられることを呟く。それを耳にしたジェイドがにやりと笑った。
「ええ、そうです。生贄第一号として、彼らに犠牲になって頂こうかと♪」
 にこにこと笑いながら、さらりと酷いことを言っているこの軍人の目は本気だ。「スケープゴートとはどういうことですの?」とナタリアから質問が飛び、アッシュはそれに対して簡潔に説明をする。
「現在世界では、レプリカの存在を認識されてはいるが、その扱いはまだ酷い部類に入る。さらにそのレプリカ達を排除しようと考えている輩も各地に散らばっているだろう。もちろんそれが〝リア〟だけじゃないことは分かるな? そいつらに――まぁ牽制といったところか。
 今回の騒動を利用して、〝リア〟の連中を世界という公の場で処刑なり、極刑なりを与えることで、世界中に散らばってる不安分子を抑えこもうって魂胆だろ」
「よく分かりましたわ。ありがとうアッシュ」
 ナタリアは笑顔でアッシュに礼を言う。彼はその笑顔にくすぐったいような感情を覚え、「礼などいらん」と彼女から視線を逸らす。アニスとガイの二人が、その一部始終を生温かいような視線で見詰めていた。
「まぁそういった理由で彼らを生け捕りする必要が出て来たと。しかし、このアジト内に突入する人数は少ない方が良い。大勢だと収集が付かなくなる恐れがありますからね。とはいえ、我々だけでは生け捕ることは難しい。そこでティアの出番――というわけです」
「成る程。ティアの〝譜歌〟か」
 ガイがようやく納得したように言った。
 睡眠作用を持つ第一譜歌なら、組織員を生きて捕らえることが可能だろう。ガイが、かつて彼女が実兄を討つために屋敷へ襲撃をして来たときも、あの譜歌は効果覿《てき》面だったと話していた。
 そんな周囲をよそに、リドはひたすら目の前の譜業機関を手にとってしげしげと見詰めていた。
「で、これがその〝譜歌〟ってやつの効果を増幅させる機関かい? 見たところ、空気中に散っている第七音素を取り込むような譜陣が刻まれた機関と、取り込んだ音素を倍以上に音素を増幅させる譜術機関が付いてるみたいだけど。増幅させた第七音素をここの部分から発生させるって感じ、かな? んーよく見えないなぁ」
 続けて「分解してみて良い?」と聞くリドに、慌てて「やめろ」とガイが止めている。それを壊されてしまっては元も子もない。ジェイドはリドが持つ知識の深さに少し驚いていたようだった。今更のような気もするが。
 そしてさらに、リドが驚くべきことを告げる。
「でも、実際動かしてみないと分かんないけど。この機関が持つ作用だけじゃ、範囲が足りないと思うよ?」
 どういうことだとガイが聞こうとすると、そこへ伝令兵が叫びながら飛び込んで来た。
 
「会議中失礼します! カーティス大佐! 反レプリカ組織、〝リア〟の首領から文書が届きました!」



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赤毛2人に愛を注ぐ日々。