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第八章 Sephiroth 12  (詳細表示)




あなたと同じ時間、同じ場所で存在できた。

私はそれだけで嬉しいのです。




――なぁ。

俺、お前には迷惑かけてばっかりだったな。
いやお前だけじゃなくて、皆にも、だけど。

生まれた時から〝ルーク・フォン・ファブレのレプリカ〟として、お前の名前と場所を奪って生きてきた。
その奪い取った場所での役目は、お前の身代わり。
お前の代わりとして生き、お前の代わりとして死ぬ。
たったそれだけのために、俺は生まれた。

お前の存在を知らずにいたら、その通りに生きていたかもしれない。
何も知らない人形のまま、あの時あの場所で朽ち果てていたのかもしれない。

だけど昔、遊び半分で入った書庫室で全てを知った。
知って、それから逃げ出した。

だって信じられなかったんだ。誰だってそうだろう?
今まで生きてきた自分が〝嘘〟で、〝本物が別にいる〟なんて。
自分の存在自体が、偽物だったなんて。

記憶を隠したそれからは、何をするわけでもなくただ日々を過ごしていた。
誰も信じられなかったし、信じるつもりもなかった。
自分のことをまともに見てくれない人達ばっかりだったから。

唯一信じていた、信じたいと思っていた人から教えられる剣の修行だけが、唯一の楽しみだった。
でも、その人にはいつの間にか操られてて、良い様に扱われて、結果あの場所で捨てられた。
挙句に俺はその人に作られたっていうんだから、お笑い種だ。


――『合言葉は……〝愚かなレプリカルーク〟』――

――『ぁ……嫌……だ! ……うわあああああ!!』――


馬鹿だよな、俺。
本当、自分でも嫌んなるぐらい馬鹿だ。

全部知ってたのに、俺がレプリカだってことも、俺が生まれた時の記憶もあったのに。
あそこからはじき出されたお前が、どんな人生を歩んでいたのかなんて、考えもしなかった。
それなのに、お前の居場所を奪ったまま生きて、お前の仲間になるはずだった人達と行動して――……。
本来なら、俺にはそんなもの存在しないはずなのに。

だけど、これまでに出会ってきた人達には感謝してるんだ。
俺に生きる意味を気付かせてくれたから、生きる目的をくれたから。
だから今は、生まれたことを後悔していない。

――だって、お前に会えたから。

お前は俺のこと嫌いだと思ってるだろうけどさ。
そりゃ俺だって初めて会った時はびっくりしたけど、……純粋に綺麗だと思ったんだ。
自分と同じ顔をしているはずなのに、どうしてだか全然違うと思った。髪だって、瞳だって、俺よりも深い色をしていた。


「お前は俺だ! そのお前が自分自身を劣ってるって認めてどうするんだ! 俺と同じだろう!
どうして戦って勝ち取ろうとしない! どうして自分の方が優れてるって言えない! どうしてそんなに卑屈なんだ!」

「違う! そんなつもりじゃない。第一、俺はお前とは違うだろ」


お前は同じ存在だって言うけど、俺とお前は〝違う〟。

同じ顔をしていても、同じ音素数を持っていても、育った環境や性格はまったく別のもの。
それだけで、俺達は違うだろう?


「……な、何……」

「俺はお前のレプリカだ。でも俺は……ここにいる俺はお前とは違うんだ。考え方も、記憶も……生き方も」


俺達(レプリカ)は、確かにこの世界にとっては異質的な存在で。
だけど、人間と同じように呼吸をしているし、考えて、行動して、生きている。
同じ姿形をしていても、この世界に生きていることは間違いないんだ。


「……ふざけるな! 劣化レプリカ崩れが! 俺は認めねぇぞ!」

「お前が認めようと認めまいと関係ない。俺はお前の付属品でも、代替え品でもない」


俺はやっと、自分の力で立ち上がることを覚えた。
皆がいたから、ここまで来れた。

だけどまだ隠している。

皆には感謝してるけど、やっぱりまだ怖いんだ。
「また見捨てられたらどうしよう」、「見限られたらどうしよう」って。

でもお前は、俺を見捨てなかった。アクゼリュスを崩壊させてしまった後でも、皆との繋がりを残してくれた。
その不器用な優しさが、嬉しかった。


「おもしれぇ! ならばはっきりさせようじゃねぇか! お前が所詮はただの俺のパチモンだってな!」

「アッシュ、俺はお前と戦うつもりはない!」

「うるせぇっ! 偉そうに啖呵を切っておいて逃げるつもりか? お前はお前なんだろう? 
それを証明して見せろ! でなけりゃ俺はお前を認めない! 認めないからなっ!」


そして同時に、悲しくもあった。
俺は自分を見つけることが出来たのに、お前はまだ見つけられないでいる。
確かに存在しているのに、必死でそれから目を逸らしている。

――まるで、以前の俺のように。


「……どちらか一人しかここを出られないなら、お前が行くべきだ。ローレライの鍵でローレライを解放して……」

「いい加減にしろ!! お前は……俺を馬鹿にしてやがるのか!」

「そうじゃない。俺はレプリカで、超振動ではお前に劣る。剣の腕が互角なら、他の部分で有利な奴が行くべきだろう」

「……ただの卑屈じゃなくなった分、余計にタチが悪いんだよ!」

「アッシュ……」


閉じ込められた部屋で同じ顔が対峙した。
彼の表情は険しく、だが真っ直ぐにこちらを見据えている。


――あぁ。


(やっぱり、俺はアッシュのことが……)


だからこそ、お前に認めて欲しい。

俺がここにいること。
俺がこの世界に生きていること。
俺が俺として、お前とは違う生き方をしていること。


「他の部分で有利だ? 何も知らないくせに、どうしてそう言える? 
お前と俺、どちらが有利かなんて分からねぇだろうが!」

「だけど俺はどうせ……」

「黙れ!」

「アッシュ! 何を……」


自分とは逆の手に握られた剣。
先程とは違う意思が秘められた瞳。


「どうせここの仕掛けはどちらか一人だけしか出られない。だったらより強い奴がヴァンをぶっ潰す! 
超振動だとか、レプリカだとかそんなことじゃねぇ。ヴァンから剣を学んだもの同士どちらが強いか……。
どちらが本物の〝ルーク〟なのか、存在をかけた勝負だ」

「どっちも本物だろ。俺とお前は違うんだ!」

「黙れ! 理屈じゃねぇんだよ……。過去も未来も奪われた俺の気持ちが、お前に分かってたまるか! 
俺には今しかないんだよ!」


――ひょっとして、彼も怖いのだろうか。


俺の存在を認めてしまったら、今までに築き上げてきた自分が壊れるかもしれないことが。
預言に記された〝聖なる焔の光〟である〝ルーク・フォン・ファブレ〟として名を受け、
それを捨ててまで生きてきた意味がなくなることが。


「……俺だって、今しかねぇよ。奪われるだけの過去もない」


俺は記憶を隠すことで、お前は俺を憎むことで、全ての〝理由〟から逃げてきたんだ。

お互い、真っ向から立ち向かっていたと思っていた。
だけどそれは、ただそこから逃げているだけだった。

アッシュは、今まさに闘っているんだ。
自分の中の自分と闘っている。


「それでも俺は俺であると決めたんだ。お前がどう思ったとしても俺はここにいる」


だったら俺はそれに答えるしかない。
何もかもを取っ払った俺を、俺自身を、認めてもらうために。


「それがお前の言う強さに繋がるなら、俺は負けない」





――なぁ。

俺、お前の中に存在出来たかな?
お前の記憶の中に、少しでも映っていたかな?

……もう聞くことは出来ないけど。

俺、やっぱりお前に会えてよかったよ。
お前の……〝ルーク・フォン・ファブレ〟のレプリカとして生まれてきて良かった。

あの時。
ケテルブルクでお前が言ってくれた言葉。
「自分の命を大事にしてない奴に、死んでいった奴の気持ちを背負えるわけがない」……だっけ。

嬉しかった。
本当に、嬉しかったよ。

こんな俺に、「命を大事にしろ」って。
お前が「生きろ」って言ってくれてるような気がしたから。
俺の勘違いかもしれないけどな。

でも、あの時はもう、遅かった。
俺には命を大事にする時間が残されていなかったから。
残された時間を、どう使うかで必死だったから。

でも、良いんだ。
これは仕方の無いことだから。

決して人に自慢できるような人生なんかじゃなかったけど、色々なものを沢山奪ってきた酷い奴だったけど。
もうちょっと時間があれば、それも何とかなったかもしれないけどさ。

それでも、皆に、お前に会えただけで充分。

だけどお前は駄目だぞ?
これでやっとお前に返せるんだからな。

身体、俺のお古で悪いけど。
ついでに俺の記憶もちょこっと入っちゃうけど。
……大事に使ってくれよな。

俺の記憶は隅っこに置いてくれていいから。
だけど、たまにでいいから思い出してくれよ。

それだけで俺が確かにそこにいたってこと、証明できるから。


――アッシュ。

――なぁ、アッシュ。


本当はもう〝ルーク〟なんだろうけど……。
もう少しだけアッシュって呼ばせてくれな?


「アッシュ……」


――俺はお前のことが……


「好きだよ」




――大好き、だったよ。





―第八章 Sephiroth 完―
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プロフィール

HN:
ちおり
性別:
女性
自己紹介:
赤毛2人に愛を注ぐ日々。