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第一章 Hide 01
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第一章 Hide 01

 
 
――もういいかい。
 
――まぁだだよ。
 
 
 
 

 男性から見事に女性と化した状態で下界に降りるにおいて、ルークには気になることがいくつかあった。

 まずは、己の容姿と名前。

 名前の方は、ルークが適当に思いついたもので、響きが良かった〝ルキア〟と名乗ることにした。この名前なら女性とも男性ともとれるし、思いつきで付けたので〝ルーク〟という名前との関連性を問われることはないだろう。

(それに……俺が考えたやつだけど、初めての自分の名前だしな!)

 この名前は大切にしようと思いながら、ルークはもう一つの問題を考える。

――この朱色の髪だ。

 例え身体は女でも、この髪色で街中を闊歩《かっぽ》していたら目立つことこの上ない。挙句に朱い髪で碧の瞳などと、『キムラスカ王族の縁の者です』という看板を背負って歩くようなものだ。

 もしこのままの状態で移動しようものならルークの存在はあっという間に噂となり、噂が噂を呼んで仲間達の耳に入るのは必須。そしてその後どうなるか――この先は推して知るべし、だ。

 ルークはどうにかならないものかとローレライに相談した。

『それでは、瞳と髪の色が入れ替わる作用を施しておこう。ただし、深層心理において激しい混乱や強い想いや願いがあった場合は、強制的に今の色になるがな』

『それならいっそのこと髪の色変えてくれよ!』

『何故だ? 我はお前の色が気に入ってるのでな、変えるつもりはない』

――駄目だ。

 これ以上何を言っても聞き入れてもらえそうにない。

 ルークのあるはずのない肩が落ちる。

 瞳と髪の色が入れ替わるということは、瞳が朱色に、髪が緑色になるということか。それなら何とか隠せるかもしれない。髪色についてはここら辺りが妥協点だろうとルークは思う。

 そしてその場に新たな問題が浮かび上がる。いや浮かび上がるというよりは、作り出されたと言った方が正しいかもしれない。

『じゃあせめて、そのビラビラした服をもうちょっと何とかしてくれよ……』

 今度はルークのあるはずのない瞳から、出るはずのない涙がにじみそうだった。

 それもそのはず、目の前に出来上がった〝ルキア〟となる予定の人物には、一般の女性が喜びそうな可愛らしいデザインのドレスが着せられていたのだ。これでは動き辛い上に、男だったルークにとっては何より恥ずかしいだろう。

『それこそ何故だ? 下界の女性はこういったものを好んで着るのだろう?』

 気のせいだろうか、若干ローレライの口調が浮ついている気がする。そしてそのまま『ユリアの服もとても似合っていたな』と、昔の思い出に浸ろうとするローレライを何とかルークは引き止めた。

『〝一般の女性なら〟だろ!? 俺は仮にも男として育ったんだぞ!? こんなドレスなんか一度だって着たことはねぇっ! 良いから変えろ! とにかく変えろ! もっとシンプルなのが良い! スカートは嫌だ!!』

『やれやれ注文の多い。しかしだな』

『何だよ!?』

『逆にそれでは目立たないか?』

『あ』

――確かに。

 瞳と髪の色が入れ替わるのは良いとしても、それでも緑の髪は目立つ方だ。

 そんな状態で男装などしていたら、わけありの旅なのだろうかと注目を浴びる可能性がある。見付かりたくないのなら、なるべく目立つことは避けていきたいところだ。

(特に、ジェイドに見付かったら尋問されそうで怖いしなぁ)

 もしそうなったらと、ルークはそのときを想像して身震いする。

(絶対にそれだけは嫌だ!)

――ということは極力目立たないようにする必要があるわけで。

 目立たないようにするためには、〝その場に馴染む〟ということが必要不可欠なわけで。ルークの中でぐるぐるとした思いが巡る。

(うぅ、嫌だけど、すんげー嫌だけど)

 約束を果たすためならば仕方がないとルークは腹を括る。それにこの服については下界へ降りてから、新しい服を調達すれば良いだろう。

『着た方が良いことは分かったからさ、せめてもうちょっと動きやすいのにしてくれ……』

 しかし頭では納得していても、未だルークの中にある〝男〟としての部分がその衣装に対して拒否反応を起こす。身体は女となっても中身は男のままなのだ。そんな状態でいきなり「スカートを穿《は》け」と言われても、すぐに穿けるわけがない。

 その後、ルークは納得いくまでローレライに注文を付け続け、ようやくこれなら何とか耐えられると思う服装になった。

 やっとのことで全ての準備を整え終わると、ローレライはルークの意識を出来上がったばかりの身体へと移す作業を始める。

 記憶と身体がゆっくりと合わさり、音素同士が混ざり合っていく。それに合わせる形で遠のいていくルークの意識の中、ローレライの言葉が頭に響いた。

『愛し子の片割れよ。聖なる焔の光よ。我は願っている。今度こそ、お前のその手に幸福が降り注がんことを』

『ありがとうな、ローレライ。アッ――ルークの構築が終わったら連絡してくれ。ちゃんと戻って来るかどうか、見届けたいから』

『分かった。そちらへ送り届ける前には、必ず――――――』

 その言葉を最後に、辺りは光に包まれた。



 次にルークが目を開けたときには、眼前に見覚えのある風景が広がっていた。

 紺色の空に白い月、眼下にはセレニアの花、そして近くの滝から聞こえて来る水の音。それらから判断するに、どうやらここはタタル渓谷であるらしい。

 まず始めに、ちゃんと身体が動くかどうかを試すためにルークは両手を握ってみた。

――問題なく動いている。自分の身体になっている。

 それに安心したルークは視線を前に据え置いたまま、ほう、と吐息をついて呟いた。

「戻って来たん――っ!?」

 しかし口から出た思ったよりも高いその声に、ルークは思わず手でばしんと音を立てながら口元を押さえる。

 本当にこれは自分の声なのだろうかと疑ってしまうほどの高音。変わってしまったそれを確認するために、ルークは再度恐る恐る声を出した。

「あー、あー――ってうわー……、本当に女だよ。変な感じだなー」

 声だけではなく、視線の高さも男だったときよりもかなり低く感じた。そのときの背丈は旅に関わっていた男性陣から比べると低い方だったとは言え、それでも一般の可愛いとされる女性よりは高かったとルークは自負している。

 しかし今のルークはと言えば、その一般的に可愛いとされるほどの背丈になってしまっていた。

「俺の身長がぁ……」

 失ったものの大切さを嘆くように、ルークはがくりと肩を落として下を向く。分かっていたことだが、いざ目の前にするとやはりショックだ。

 しかしゆっくりとルークが目を開いたその先には、それよりもショックなものが映っていた。

「あんの、くそ馬鹿集合体っ――!」

 身体は女になってしまったけれど、生き返らせてくれてありがとう、とか、話し相手になってくれてありがとう、とか。そんな感謝の気持ちなど、急激にすっとんでいった。

 見開いた視線の先には、ルークがあれこれ悩んだ末に決めた服装ではなく。直す前の――女性が好んで着るようなビラビラしたあの服が着せられていたのだ。

「くぉらー! 降りてこいローレライいいいいい!!」

 ルークは視線を勢い良く上に向け、両手を挙げてやり場のない怒りに叫ぶ。

 しかし悲しいかな、その怒声は非情にも空へと消えていった。



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赤毛2人に愛を注ぐ日々。