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第三章 Caught 08
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第三章 Caught 08

 


完璧でなければ、

許せないのだろうか。




――自国の幹部達が情報を塞き止めている。
 その事実に仲間達は怒りや哀しみといった、どうしようもない感情に震えていた。
――あれほどの犠牲を払ってまで今の空をくれたレプリカ達を、まだ認められないのかと。
 それと同時に、この場にいるレプリカ達に対して申し訳なく思う気持ちが周囲の表情を曇らせていた。
「内通者がいることから、我々は自国の情報網にはあまり頼れないことが分かると思います。……上におられる方々が失脚でもしない限り、ね」
 ジェイドの口角が上がり、冷徹に笑うその表情は通常であれば見る者を怯えさせることが出来るのであろうが、今はやるせないようなそれにとれた。
「まぁでも、今のところは泳がせておきましょう。女性陣は引き続き、定期的に〝リア〟について報告させるようにしておいて下さい。その方が彼らも安心するでしょうから」
 その指示に三人が頷く。
 しかし彼の視線が全体に向けられ、続けて発された言葉に周囲は再び驚かされることになる。
「同時に、反レプリカ組織〝リア〟からの内通者達も、ここに入り込んでいると思われます」
――急に何を言い出すのだろう、この赤目の軍人は。
 そう思ったガイが、その突拍子もない言葉に慌てた様子で彼に訴えた。
「ちょっと待てよ旦那! それって下手すりゃこの場に――!」
「内通者が」と言いかけたのを、ジェイドが制する。
「嫌ですねぇガイ。少なくともこの場にはいませんよ。そうでなければ、私がこの部屋にわざわざ盗聴防止用の譜術などかけるわけがない」
「そうでしょう?」とにっこりと笑って目で問いかける。その視線にガイは開きかけた口を閉じて「そうだよな」とほっとしたように笑って頷いた。
 そんな二人の様子を、アッシュは眉間の皺を二割程度増やして見詰めていた。
 確かに彼の言うことはもっともだ。冷静になってみれば分かる。
(内通者がいるとすれば――被験者の方だな)
 元々レプリカ達は意思を持たない。その上、ただでさえ被験者達に厄介者扱いされている彼らは、その日を生きるだけで精一杯なはず。そんな状態ではスパイ行為をする余裕など無いに等しい。
 やれるとするならば、自我がないときから〝そういうもの〟として刷り込まされる―― そう、以前ヴァンがルークを操っていたときのように、洗脳でもしない限りは。
――洗脳。
 何気なくアッシュの頭の中を過ぎったそれがきっかけとなり、彼の中で今までもやもやとしていたものが晴れるように考えがまとまっていく。
――小規模な事故。
――減らないレプリカ。
 ひょっとしてこれらの事柄について、自分達は大きな勘違いをしていたのではないか?
 小規模だと思っていた事故は、実は大きな事故で――それが原因でレプリカが死んだとしても、彼らに証拠は残らないのだ――。命を落として消えたレプリカを、内通者が手引きして〝増員〟していたとしたら?そのレプリカが暗示の類を掛けられ、〝洗脳〟されていたとしたら?
 そして〝増員〟されたレプリカ達が、何らかのきっかけで一斉に行動を起こすように暗示を掛けられていたとしたら――?
(――もしこれが本当なら、ここは相当な爆弾を抱えていることに、なる)
 アッシュは考えた末に、一つの仮定に行き当たる。
 例えば、洗脳されたレプリカ達が一斉に暴徒と化し、工事関係者である被験者らに襲い掛かったとしたら。ここを警護している兵士達はそこにいる被験者達を守るため、やむなくレプリカ達に攻撃を加えるだろう。そしてそれは世界中に〝レプリカは危険である〟という意識が植え付けられるきっかけとなる。
 そうすればそれを理由に、レプリカに攻撃を加えることが可能に……――
(――まさか、これが奴らの狙いか!?)
 アッシュは慌てて熟考していた思考をストップさせ、すぐさま視線をジェイドに向けた。向こうも彼が考え付いたことに気付いたらしい。
 あの笑みはそのままに、ジェイドはゆっくりと頷く。それを合図に、アッシュは腕を組んだまま口を開いた。
「……〝リア〟の連中はここで、〝レプリカを攻撃対象とする正当な理由〟を作るつもりだな?」
 それが部屋内に響き渡った途端、アッシュとジェイド以外の全員が目を見開いた。
「いやぁ、本当に察しが良くて助かりますよ♪ アッシュの発言については、確証を得てから説明するとしましょう。憶測で物を言うのはあまり好きではありませんし。ですが、そうですね……ヒントを与えておきましょうか」
 そう言ったジェイドに周囲の視線が集中する。
「反レプリカ組織〝リア〟はレムの塔にいる内通者達を通じ、小規模な事故にみせかけて消したレプリカ達を、我々の目の届かないところで密かに増員しているかもしれない――ということです」
 説明された事項を仲間達は必死で追った。
 無理もない。なるべくなら信じたくないようなことが、ここで起こっているかもしれないのだ。彼らは慎重に先程出された情報を頭の中で整理し始める。
 それを見届けたジェイドが今度はアンバーの方を向き、「ここにいるレプリカ達についての把握はしているか」と聞いた。
 しかし、聞かれた方のアンバーはその質問に対して少々渋い顔を見せる。
「人数は把握しているが、毎日少しずつ増えていくからな。しかもここに来るレプリカ達には、ほとんどに名前がない。名付けの作業もラピス達に手伝ってもらって、名簿を作ろうとしてるんだがなかなか、な……」
 彼はジェイドに「何故そんなことを」とは、あえて聞かなかったようだ。
 もし、内通者達が密かにレプリカを増員しているというのが本当なら、それを見極める必要がある。そのためにレプリカを把握しているかどうかを聞いたのだろう。
 それを察したアンバーが溜息をつきかけたとき、ラピスが遠慮がちに手を挙げた。
「それなら、私とラズリがしてることが役に立つかも……」
――と、そのとき。
 会議室の扉をノックする音が響いた。辺りに緊張が走ったが、続いて聞こえて来た声に全員が脱力する。きっとその場にいた全員が同じことを考えたに違いない。
――何故、いつもこのタイミングなのだ。
「ちょっとーぉ、誰もいないのーぅ? おっかしいわねェー。ここに居るって聞いて来たのにーぃ」
 相変わらずの場違いなレピドの声に、ラピスが「ひょっとして出来たのかも!」と立ち上がって扉を開けた。ここで気付いたことだが、ジェイドのかけた盗聴防止用の譜術というものは、この部屋内での会話が外に漏れないという作用だけであり、外部からの声は聞こえるらしい。アッシュは何とも悪趣味なものだと思い、僅かに顔を顰めた。
「なぁにぃ? 皆いるじゃなぁい」
 ラピスが扉を開けた先から、陽気な口振りでレピドがひょっこりと顔を出す。彼は目敏く周囲の中にティアがいるのを見付けると、頬を赤らめて物凄い笑顔で手を振る。対するティアはその行動に少し戸惑っている様子で、隣に居たアニスが肘で戸惑う彼女を突いている。
 ある程度それを堪能したレピドが視線を降ろすと、さも今気付いたと言わんばかりに話しかけた。
「あら、ラピス。頼まれてたもの、やっと仕上がったわよぅ♪」
 だが彼女はそれについてまったく気にすることなく「本当!?」と言って飛び上がると、中に入るように促した。進められるがままに足を踏み入れて来たレピドの肩には、大きな箱が担がれている。
 そして彼は「結構重いのよぅこれェ」と言いながら、その箱を机の上に置いた。
 どさりと重そうな音を立てて置かれた箱からは、じゃらりと何かが擦れ合う音が響く。
 ラピスは小走りでその箱に近寄ると、蓋を開けてその出来栄えを確認し始めた。その様子を見ていたアンバーが「それは何だ?」と首を傾げて彼女に聞くと、ラピスはその中の一つを手に取ってアンバーへと近寄って行った。
「これはアンバーの分よ」
 そう言ってラピスは手に持っていたものをアンバーに渡す。仲間達は腰を上げて二人の傍まで移動して来ていた。
 横から覗き込んだアンバーの手中にあったのは、紐などが通るように加工された琥珀色の石。裏返すとそこには、赤い文字で――恐らく作成した日付と彼の名前が刻まれていた。さらにその下には小さくレピドの仮名が彫られている。
「これは――!」
 隣を見ると、ラズリがリドにも似たような石を渡していた。しかしそちらはアンバーのような琥珀色ではなく、リドの髪の色に良く似た黄緑色の石。そこにも同じように、赤い文字でリドの名前と日付が刻まれている。
 アッシュはその正体をはっきりとさせるため、机の上に置かれた大きな箱を覗き込んで中身を確かめた。そこには色とりどりの石がぎっしりと詰まっており、その一つ一つに赤い文字で日付と名前が彫られている。
「骨が折れる作業だったわぁ。何せここにいるレプリカ全員の分だものぉ、目が死ぬかと思ったわよぅ。
でも可愛いラピスちゃんの頼みとあらば、頑張らないわけにはいかないものねェ♪」
 そう言ってにっこりとレピドが笑う。隣ではラピスが、「本当にありがとう。ご苦労様でした」と礼を言っている。
 それを横目で見ながら、ラズリがこの石について説明を始めた。
「工事が始まって間もない頃、ラピスに相談したの。私達は工事関係のことを手伝うことが出来ないから、他のことを手伝えないかって」
 アッシュ達が工事を手伝っている間、ラズリとラピスの二人はレプリカ達の人数管理や名付けをまかされていた。
 しかし、日に日に増えていくレプリカ達に名前を付けていく作業はかなり大変だったようで、それを名簿に記していくのも苦労したらしい。さらに、名付けが終っても人数が人数だけになかなか覚えられないという壁に突き当たったようだ。
 何とかしてそれを改善出来ないかと二人で相談した末に考え付いたのが、レプリカ一人一人に日付と名前が彫られた石を身に付けさせることだった。
「ヒントはね、私とラズリがお揃いで付けてるこの石だったの」
 ラピスは大切そうに首元にあるネックレスに手を伸ばすと、それを愛おしむように優しく撫でた。
「レプリカは死んだら何も残さずに消えていくだけ。でもこの石を付けてたら、もし消えたとしてもそこに残ってくれるでしょう? ちゃんとその人がいたよって、存在の証になると思ったから」
 二人はそれを思い付いたあと、教え子であるレプリカ達から好きな色の石を持参して来てもらったのだという。
 ただ、自我が目覚めていないレプリカ達は石を探すことすら困難であるため、勝手ながら二人が髪の色に合わせた色の石を用意したとか。ちなみに、アンバーとリドの石が髪の色であるのは「驚かせたかったから」らしい。
 石の作成をレピドに頼みに行くと、事情を聞いた彼は二人の考えに物凄い勢いで賛同し、すぐさま作業に取り掛かってくれたようだ。彫られている色については、ただ彫るだけでは見辛いということで特殊な絵の具で色付けをすることにし、何色が良いかと三人で相談した結果、赤色に決まったのだという。
「赤といっても、朱色に近いけれど」とラズリがそう言って笑みを浮べる。
 その説明を聞きながら、アッシュは何気なく箱の中の石を一つ手に取り、裏返した。
――使われたその、朱は。
(……あいつの髪の色、か)
 色を目にした途端、茫洋と意識が霞み、その心が「会いたい」と叫びそうになるのを彼はぐっと堪える。今はその時期ではないと、アッシュはひたすら自分に言い聞かせた。
「じゃあ、あのときの馬鹿高い絵の具が……?」
 黄緑色の石を手にしたままリドが聞くと、レピドは片目を閉じながら「そうよぉ♪」と答えた。
(そういえばそんなことを言っていたな……)
 アッシュの脳裏に、絵の具がなくなったのだと言って首を傾げていた彼の様子が思い出される。
(まあ、そのあとで絵の具は無事見付かったようだが)
 ここで、今まで黙り込んでいたジェイドが口を開いた。
「成る程、これは良い案です。それにこれからしようとすることに、大いに役立ってくれそうですよ♪ 三人には感謝をしなければなりませんね」
「ありがとうございます」と、ジェイドが軽く礼をする。彼の思わぬその行動に、三人は照れ臭そうにしていた。
「さぁ、そうと決まれば、早速準備を始めましょうか」
 そう言って振り返ったジェイドの表情が、至極楽しそうなものへと変わっていた。
 辺りに再び疑念が湧き上がる。一体彼は何をしようとしているのか。
 箱の中の石を手にとって見ていたアニスがジェイドの方を向いて言った。
「それって先言ってた、イイコトって奴ですかぁー?」
「そうですよアニース☆」
 それは何だと問う仲間達に、ジェイドはうさんくさい笑顔を貼り付けて言い放った。
「なぁに、皆さんにちょっとした健康診断を受けてもらおうと思いまして♪」



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