泣かないで、悲しまないで。
もう、大丈夫だから。
白い空間に泣き声が響く。
小さくしゃくり続けるその光を人型は優しく撫でていた。
『……っひっく……うぇ……』
「怖かったんだね……」
『――っ、怖、かっ――』
「そっか……」
人型の手が光を包む。
「――〝あの人〟は、居た?」
『ううん、見えな、かった』
「見えない?」
『うん。真っ暗、だった』
「……そう……」
『だから……怖くて――っ……』
そう言って再び震えだす光を手でなだめながら、人型は考えを巡らせる。
『でも……〝声〟は、聞こえたよ?』
「――誰の声だった?」
『誰なのかは分からない……。暗かったし……』
「そっか……」
なだめている手を止め、人型は光に問う。
「もう一度、外に出てみない?」
『――っやだ! もう、怖いのは嫌だよ!』
人型は光を視線の高さまで抱え上げると、優しくこう言った。
「じゃあ、こうしよう?」
『――?』
「君が怖いと思うもの、君が悲しいと思うもの、君が辛いと思うもの、君が苦しいと思うもの。全部、全部〝俺〟が持って行ってあげるから」
『――え?』
ぱちんと人型が指を鳴らすと、今まで抱えていた光がじわじわと人の形を取り始めた。
「だから、大丈夫。もう怖くないよ。君は安心して外に出れば良い」
『ちょっと待って! じゃあお前はどうするんだ?』
光は点滅を繰り返しながら、ここに残ると言う人型よりも若干小さな人型を模っていく。
「俺は、ここよりもずっとずっと奥深く。君の〝想い〟が癒えるまで、そこにいる」
『駄目だよそんなの! 一緒に――!』
朧気だった輪郭がはっきりしていくと共に、光から人型になりつつあるものはふわふわと上へ浮上していく。
それに気付いた光が慌てて下に手を伸ばすが、届かない。
――見上げる人型。
――見下ろす人型。
『――っ、何で!!』
「君の〝傷〟が癒えるまで、そこで待ってるから」
『嫌だっ! お前も――!』
人型との距離が離されていく。
「だから、――……と一緒に……迎えに来てね」
『だ、誰――っ? 聞こえないよ! 待って! ねえ!』
しかし段々とお互いの姿が見えなくなっていく。
それとは逆に、光の輪郭は明確になっていった。
――上昇を続ける人型は女性に。
――下降をし始めた人型は男性に。
「ずっと、待ってるから――――――〝ルキア〟」
『待って!!』
白い空間が光に飲み込まれ、またあの鈴の音が辺りに響いていく。
――リィン……――
〝ルキア〟と呼ばれた人型が下へと伸ばした手は、無常にも空を掻いた。
『――〝ルーク〟――!!』
――たった独りで行かないで。
そう叫ぶルキアが見たのは、今にも泣きそうな――ルークの笑顔だった。
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