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第四章 Save 10
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第四章 Save 10




か細く聞こえる声。

泣いているのか、叫んでいるのか。




 青くどこまでも広がる空を、真っ直ぐに突き進んで行くものがある。
――飛晃艇アルビオール。
 キムラスカ王国が所有――現在は特別な許可があれば他国も使用出来るらしい――する、世界で初めての飛行する音機関だ。
 その機内ではキラキラと目を輝かせた黄緑色の髪の少年が、楽しそうに右往左往している。
「すっげー! すっげー!! これ良いなぁ、操縦してみたいなぁ」
 機内のあちこちを探検するように行動する彼――リドを、仲間達は微笑ましく見守っていた。
 
 当初の予定では、リドは作戦の人数に含まれていなかった。
 しかし作戦で使う予定だった音機関を、ここにいる少年が初期状態から改良に改良を重ねた盛大な改造をしてしまい、とても一人では扱えない代物となってしまったため、連れて行かなければならない状況になったのだ。
 ガイであれば扱えるのであろうが、ただでさえ少ない戦闘員を失うのは痛い。かといってティアが譜歌を歌いながらこれを一人で操作出来るはずもない。
 そこでこの音機関を改良した少年――リドを連れて行き、現地で操作の手伝いをしてもらうという結論に至ったのである。
「なぁリド、頼むから一緒に来てくれないか?」
「やだ。争いごとは好きじゃないし、何より面倒臭い!」
 彼はそう言ってぷい、とそっぽを向く。
 どう言っても動こうとしないリドの様子に、さすがのガイも溜息をつきながら肩を落としている。女性陣も半ば意地になっている少年にどうしたものかと頭を悩ませていた。
 ただ一人アッシュだけは、少年の仕草や言動を見ながら何事かを考えていたようだが。
「仕方がありませんねぇ」
 それを見ていたジェイドがやれやれ、と溜息をつく。
――駄々をこねる子供には、飴を。
「いやあ残念ですねー。手伝って頂けるのであれば、あなたが憧れているという空飛ぶ音機関、アルビオールに乗ることが出来るのですが」
「超行く! 超手伝う!」
〝アルビオール〟という単語がジェイドの口から出た瞬間、リドの態度が一変し、物凄い勢いで手を上げる。気のせいだろうか、少年の周りがきらきらと輝いて見えた。
 
 そして現在、ジェイドの言葉通りにリドはアルビオールへと乗り込み、思う存分空飛ぶ音機関を堪能しているというわけだ。
 楽しそうに船内を駆け回る少年の姿を見ながら、ジェイドは彼に来てもらって助かる理由がもう一つあった、と思う。
 それは彼がいるお陰で、これから作戦を実行しようとしているメンバー達の緊張が解れているということだ。ルークを助けるという失敗は許されない状況だが、ずっと緊張し続けていては神経が持たない。
 リドの行動と会話が、アルビオール内の緊迫感を取り去ってくれているような気がするのだ。いや、実際取り去っているのだろう。少年を見守る仲間達の表情は、とても穏やかであるから。
 ジェイドは視線を窓へと移す。
 その眼下に、青い空をそのまま映したような海が広がっていた。どうやら目的地に着いたようだ。
「グランコクマ上空です。これから着水体勢に入ります」
 操縦席から伝えられるノエルの言葉に、今まで穏やかだった一同の表情が引き締まる。その中でもやはりリドはどうやって着水するのかと、興味津々といった表情で窓にへばりついていた。
 ジェイドは神妙な面持ちで姿勢を正している周囲に向き直り、これからのことを伝える。
「ここで一旦、彼らを捕獲したあとの体制を整えます。詳しいことは私の執務室でお話ししますよ。それらの準備が整い次第、即〝リア〟のアジトへ向かいます。その間に回復剤の補給をするなど、各自準備を怠らないようにして下さい」
 真剣な表情で伝えられるそれに全員が静かに頷く。その後ろでノエルを質問攻めにしているリドの声だけが、機内に明るく響き渡っていた。
 
 
◆ ◆ ◆
 
 
「向こうの状況は?」
「は、奴らはグランコクマへと向かったようです」
(あの皇帝陛下と相談をするつもりか)
くく、とモルダは喉の奥で笑う。
 さすがのネクロマンサーも今回ばかりは焦っているようだと考えながら、彼は机に地図を広げたまま、これからのことを思い巡らせて行く。
(恐らく奴らはグランコクマでこれからどう動くかを決めているはず)
 この時点で彼らが取る行動として考えられるのは三つ。
 一つ目は、ここへ攻め込んでレプリカルークを奪還。二つ目は、大人しくレプリカの街建設を中止。三つ目は、世界各国と連携し、本格的に〝リア〟《ここ》を潰そうとする。
 まず一つ目は、〝レプリカルーク〟を盾にとっている以上、一気にここへ攻め込むということはないと考えて良い。もちろんそれも考えてはいるだろうが、あの軍人のことだ。早々に攻め込むということなど頭にはないだろう。
 二つ目は――実行する可能性としてはかなり低い。レプリカ保護に尽力を尽くして来た彼らが、大人しく街を差し出すとは思えない。これは彼らにとって最後の手段としているはず。
(――ならば現時点で考えられるとすれば、三つ目)
 マルクト・キムラスカ・ダアト・ユリアシティで手を組み、各国の権限でここを潰す。
(これが一番妥当か)
 どうやって潰そうとするかはまだ分からないが、各地に放っている配下達から逐一報告が来るはずだ。
(……一部の官僚達も懐柔していることだしな)
 それに、例え世界の権限を振りかざしてここに立ち向かったとしても、こちらには〝レプリカルーク〟がいる。向こうも簡単にあれを見殺しには出来まい。そうなると、あの軍人がどういう手をとって来るか。
(しかし、用心するに越したことはない、か……)
 思考を終えたモルダは、考えている間中じっと見詰めていた卓上の地図から視線をはずし、部屋の中にいた配下の一人へと移す。
「アジト内にいる全員に、いつ敵が来ても良いように準備を整えておけと伝えろ」
 それに「了解しました」と返事をし終えた配下は、すぐさま部屋から出て行った。
 残されたモルダは机にもたれかかりながら笑う。
「は、どちらにしろ、最終的に〝レプリカルーク〟は消される運命、だ……」
 彼は懐から、日頃から常に身に付けている首飾りを取り出す。その紐の先に金具で止めてある白い髪を見て、ゆっくりと微笑んだ。
「もうすぐ、もうすぐだよクリス。もうすぐ終わるから……」
 モルダはそう言いながら、視線を部屋の奥に隠されている扉へと移す。その先に囚われている存在を思い浮かべ、彼の表情が狂気を含むものに変わった。
 
「君が死んでいった理由を、この手で消してあげるから」
 
 
◆ ◆ ◆
 
 
 数え切れないほど落ちた雫に染まった服を、ルークは静かに見下ろす。
 泣き過ぎたせいか、ルークの目の周りには鈍い痛みが広がっていた。恐らくいつもは白を湛えている部分も、充血して赤くなっていることだろう。
 だが、それでもまだ涙はルークの頬を静かに流れていく。
 先程からずっと繰り返されている自問自答。いつまで経っても答えは出なかった。
――無性に帰りたくなった。
 何も知らなかった頃へ。何も考えなくて良かった頃へ。
 満身創痍の様相だったが、痛みはすでにない。それを感じられなくなるほどに感覚が麻痺しているのだ。しかし意識だけがはっきりとしていて、逆にそれがルークを苦しめている。
 色々な対象から恨まれていることは知っていた。だけどここまで憎しみをぶつけられたことはなかったなとルークは朧気に思う。
 以前、紅い髪の彼にもこんな風に殺意を向けられたことはあったけれど、あのときは仲間達がいた。仲間達がいることで、自分は守られていた。そして仲間達がいることで、その罪を忘れられてもいたのだ。
――彼らが居ない今。
 裸同然ともいえる無防備なルークに向けられた純粋な殺意は、どんな鋭利な刃物よりも殺傷力があった。
(そこまで憎いのなら……)
 いっそのこと消してくれれば良い、とルークは思う。自分にはもはや何も出来ないし、何も言えないから。
 モルダはきっと、己が原因で死んでいったクリスという少女を愛していたのだ。その愛しい存在を、レプリカという存在が奪ってしまった。
 愛した存在を失ったモルダの気持ちを考えると、ルークは悲しさで胸が押し潰されそうになる。また、自分は知らないところで罪を犯していたのだとも思う。
――いつもそうだった。
 誰かの居場所を、存在を、意味を、奪ってばかりで。与えられるものなど何もなくて。救えるものなど、救えたものなど、この手の指で数え終わるほどしかなくて。
『何が世界を救った英雄だ』と、モルダは言った。ルークはまったくもってその通りだと思う。
 人一人の気持ちを救えない自分が世界を救ったなどと、おこがましいにもほどがある。しかもそんな自分が女になって、この世界に存在しているなんて。
(あぁ、激怒するのも当然のことだ)
――何て自分は、〝レプリカルーク〟は、醜いのだろう。
 己の存在が消えることで彼の気持ちが晴れるなら。〝レプリカルーク〟が消えることで彼の気が済むというのなら、自分は喜んで消えよう。
 しかし、他のレプリカ達が巻き込まれるのは許すわけにはいかない。あくまで彼の標的は〝レプリカルーク〟である自分だ。消える変わりに、レプリカ達を見逃してくれるように頼んでみようか。
 どんどん沈んでいく思考に、ルークはいっそ身を任せてしまおうかと思ったそのとき。
 ルークの内に眠るものがぴくりと反応した。
 それはルークにしか分からないほどの小さな声。
 
“……トゥエ レィ ズェ クロア リュオ トゥエ ズェ……”
 
――深淵へと誘うこの、歌は。



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赤毛2人に愛を注ぐ日々。